10年前の自分がどうやってバック宙をしていたのか

今日は唐突にバック宙のやり方講座。というか、自分がどうやってバック宙ができるようになったのかを話すことで、バック宙をしてみたいと思っている人の助けになれば、と。

10年前の自分

10年前の自分の動画が YouTube にあるので貼ってみる。

投稿日が2006年7月だけど、この動画自体は2006年3月頃に作ったと思う。当時はまだ自分のサイト上に wmv ファイルを直接アップロードして公開していた。それまでは Google Video があったぐらいで、YouTube が広まったのはちょうどこの頃ぐらいからではないだろうか。他にも路上でバック宙している動画はあるのだけど、短くまとまっている動画がこれぐらいだったのでひとまずコレで。

当時の自分のバック宙を見るに、まだまだではあるが、素人芸として見せられる程度かなとは思う。やっている本人も、大失敗するのでは、という感覚はなくて、ひとまず回りきれる自信があって、路上でやっている。砂場の段差を多少利用しているが、段差は別に必要ではない。むしろ段差があるとその存在に気を取られてうまく飛べなくなるので、これからやるなら平たいところでやるべきだ。

自分の体力スペックは?

当時の自分のスペックはというと、運動部経験なし、帰宅部、小学校時代に水泳は多少習っていたが腕の筋肉のこぶしもない、腹筋なんて当然割れていない、ヒョロっちい身体である。跳躍力も一般レベルとなんら変わりない。

実はバック宙は、筋力はそう必要としない。「回し方」を知って、それを正しく実行するだけで出来るものなのである。

まずはその場でジャンプ + 両膝をタック

最低限できておきたいこと、というか、バック宙のためのイメージ作りとして、その場でジャンプして、空中で両膝を抱える、というポーズを取ってみてほしい。

100% 本気で真上に高く飛ばなくても良い。高く飛ぼうとすると、ジャンプする前に膝を曲げるときにしゃがみ過ぎてしまうので、あんまりしゃがみすぎない方が良い。膝が90度曲がるのは曲げすぎ。60~70度くらいで良いと思う。上述の僕の動画は、あれは膝を曲げすぎている。もう少し曲げない方が高さが出る。

着地はきちんと両足で付ける程度にやりたい。膝を抱え込まずに単純にジャンプして着地した時のように、スタッと着地できると良い。

膝の曲げ具合だけでなく、ある程度の高さが楽に出せるジャンプの仕方を意識する。手の振り方と、ジャンプするタイミングの合わせ方。「こうやると高めに飛べるな」という感覚を知る。そのために、「あえてタイミングをズラしたらどうなるか」をやってみると良い。手が上がりきらないときに飛んだら?手を上げきってから飛んだら?ある程度極端な物事の幅・範囲を知っておくことで、丁度良い部分というのがより分かるようになる。しゃがみ込む時、両手はそこまで後ろまで思いっきり振り下げなくても良いことが分かるだろう。

膝を瞬間的に腹に抱え込むこの動作が、バック宙の姿勢になる。そして、これができる程度の跳躍力があれば、バック宙はできる

バック宙は後ろに飛ばない

バック宙とバック転は違う。バック転は手を付くためにある程度「後ろへ」飛ぶ。両手を開いて背中を反らせて、空中でカッコ「」のような形になり、手を付くイメージだ。よく「後ろ方向に斜め上45度の方向に飛ぶ」という表現をする。全角スラッシュ「」ぐらいに45度の方向に飛び込むのだ。

一方、バック宙は、後ろに飛ぶと高さが足りず、頭から落ちる。バック宙は後ろ方向への力は不要なので、ほぼ、というか、本当に真上に飛んで良い。なんなら斜め前に飛んだってバック宙はできる。「Gainer」(ゲイナー) というバック宙の変形技は前方向に飛んでいる。

↑Gainer のチュートリアル動画。Ronnie Shalvis はどの技も安定感があり、丁寧なチュートリアル動画を量産している。

時々、タンブリングやチアリーディングの出身の人は後ろに後ずさりしながらバック宙をしたりするが、これはバック宙に必要な勢い付けではない。バック宙単体を習得しようとしている人がこれをやるとバランスが取れないので止めたほうが良い。先程「その場でジャンプ」というステップを踏んだが、ベースはとにかくコレ。後ずさりしたり、後ろに勢いを付ける必要はない。

先程の「その場でジャンプ + 両膝タック」はほぼ真上に飛んでいるだろう。後ろ方向への勢いは付けていないはずだ。この感覚のまま、あとは回るだけである。

(慣れてくると、ほんの少し後ろ方向にまで腕を振り切ってあげた方が、身体を回しやすいとは思う。だがこの角度は微々たるもので、「後ろに飛ぶんだ」という意識を最初に持ってしまうとなかなか上達しないので、最初は「とにかく真上にジャンプ」と思うぐらいがちょうど良い。)

宙返りしているときのイメージ

バック宙のやり方は、「膝を曲げすぎないように程よくしゃがみこみ、腕を真上に振り上げながらほぼ真っすぐ上にジャンプする」。ココまではやってきた流れどおりで良い。

ココからの身体の回し方だが、特別どこかに力を入れる必要はない。変に「肩の背中側を引くようにするのかな!?」とか「抱えた脚をどうにかするのかな!?」とか考えない。

一番大事なイメージは、「目線を飛びたい・回したい方向に向ける」ということ。

人は見た方向に飛んでいけるし、見た方向に飛んでいってしまう。自転車の乗り方、クルマのドリフトのやり方でもよく言われるのが、「車は目線の方向に向かってしまう」というようなことだが、これが当てはまる。

じゃあ後ろを見ようとすれば良いのか、というと、これも注意が必要で、高く真上にジャンプするまでに後ろを見ようとすると、バック転の跳躍のように後ろへ飛んでしまうことになる。すると宙返りするには高さが足りず、首を折るようなエビ反りの体勢で頭から落ちてしまう。だから、ジャンプしきった頂点に達するまでは、首の位置は自然に据え、振り上げた両手を見るくらいの姿勢で置いておく。多分飛び上がった瞬間は、天井、空を見ているはずだ。両手が視界に入っているはずなので、バレーのオーバートスのような視界になっていることだろう。

両手を振り上げて、真上に飛んで、真上を見ている。それと同時に膝を抱え込み、両手で両膝を掴もうとする。そうすると、仰向けに寝転がって膝を抱えるような体勢を空中で取ることになる。ポイントは「膝を手の位置まで持っていく」イメージでいること。手を下げて膝の方に持っていくのではなく、膝を手の方に持っていくのである。

膝を抱え込もうとすると同時ぐらいに、目線を回りたい方向に向ける。つまり、真上を超えてもっと後ろ側を見るように、首を後ろに倒す。地面を見ようとするのだ。ベッドに仰向けに寝て、ベッドのフチから頭を宙に出して、そのままのけぞって床を見ようとする、そんなイメージ。

後ろを見ようとするのは、高く飛び終わってからなのである。これを間違えて、飛ぶ前から上や後ろを見ようとして飛ぶと、絶対失敗する。

イメージトレーニング大事

バック宙をするには、筋力はほとんど要らない。それよりも、これまで話したようなことを正確に行うための、イメージトレーニングが大事である。

ジャンプする前の手の振り方、飛び方、飛んだ瞬間の目線、首の位置は?膝を抱えるってどういうこと?どこまでに何をやっておくと回れる?

これらを、脳内でスーパースロー再生できるようになること。空中でのこの瞬間、周りから見るとこういう風に見えていて、主観目線だとこういう視界が広がっているはずだ、といったことを細かくイメージする。

とくに飛んで膝を抱え込んだ瞬間からの目線の移動は、イメージを付けて心の準備をしておかないと、空中で逆さまになっていることでパニックになり身体を開いてしまったりする危険性がある。この高さで後ろを見ようとするのだから、手も脚も視界に映らない状態で地面が見えているはずだ、というようなイメージを持つこと。

ぬいぐるみ有効

恥ずかしい話だが、上述の動画を撮った2006年頃は、義務教育も終わろうという年齢だったが、ぬいぐるみ遊びをよくしていた。動画で見た色々なトリッキングの動作をぬいぐるみにやらせていたのだ。

両手両足があるぬいぐるみならイメージが湧きやすいだろう。自分は「ミスター・ビーン」の「テディベア」のぬいぐるみを持っていたので、こいつによく宙返りをやらせていた。これがイメトレに役立つのである。

実際にぬいぐるみを動かして、現実的な宙返りをやらせようとすると、両手と両脚をそれらしく操るので、「こういう動きが良いワケだな」と再認識できる。ぬいぐるみを持っていれば試してみて欲しい。

ネット時代なんだから成功例も失敗例も YouTube で沢山見よう

このネット時代に、YouTube を利用しない手はない。英語で「BackFlip Tutorial」なんて検索すれば色々な人がバック宙講座の動画を作っている。英語が分からなくても良い。スロー映像や、コマ止めに線を引いたりして解説している映像を見つつ、「この人のバック宙は上手いのか下手なのか」を見極めていけば良い。あるものの良さを見極めるには、ある程度の数を見ていないと判断できないので、なるべく沢山の動画を見る。できればそれぞれスローにしたり、コマ送りにしたりして、頭の位置とか抱え込み方とかが、自分のイメージに近いのかどうかも確認したい。

適当に検索して見つけた動画だと、これなんか分かりやすい解説では。↓

イメージトレーニングと現実のすり合わせをするために、スローモーションの動画も見ておきたい。「BackFlip Slow Motion」などで検索すればいくらでも出てくる。ただしココでも、「この人の動きは真似して良いのか」はよくよく見ておく必要がある。「どうも後ろに飛びすぎていないか?」とか「ジャンプの高さがないのに全然着地まで目線を変えていなくて着地が怪しいな」とか、そういう動画は良いサンプルとしては見ず、バッドノウハウとして蓄積する。

↑このスローモーション動画は綺麗に回っている方だと思う。

↑例えばこの動画は、後ずさりするタンブリング系のクセが見えるので、ココは最初は真似しない方が良い。飛んでからのタックや目線の移動は上手だと思う。

そうそう、こういうトリッキングの技は、やっている人の専門競技によってクセが出るものがあるので、そこも意識したい。タンブリング、というのは、細長いトランポリンを使って床競技をやるような種目。チアリーディングに通じるジムナスティックもこれに近い。純粋な体操の床とは少し違う。マーシャルアーツに取り入れるバック宙は、どちらかというとブレイクダンスにおける大技としてのバック宙に近いイメージ。カポエイラの中で見せるバック宙もこれに近いが、コンビネーションの中で行うので腕で勢いを付けて後ろ方向に飛び上がってみたりすることがある。フリーランニング、パルクールの場合は段差を利用して飛び降りながら宙返りしたりするので、最初に参考にすべき動きではないと思う。それに、フリーランニング系は他のスポーツより独学の人が多いので、独自の悪癖を持っている動きもある。

失敗している動画、良くない例も、できるだけ多く持っておくと良い。「自分は飛ぶ前から後ろを見ようとしていて危なっかしいのだな」とか、そういう自分の悪癖に気付いたり、真似してはいけない動作が分かってくる。

こうした見極める力は、とにかくたくさんの動画を丁寧に見て比較・分析していくことが大事だ。

回る感覚を身につけるためのトランポリン

トランポリンで回る感覚を身につけておくのもアリだと思う。区の体育館などでトランポリンを貸し出していたりするので、近くの体育館を調べてみると良いかも。

いきなり後ろに回るのが怖ければ、横を向いて横に回る、「側宙」をオススメしたい。

前に回る「前宙」は、前が見えていて怖くないような気がするが、実は着地の難易度が高い。回りきらないと、足の構造上、かかとで着地はできないし、かといって回りすぎると、前に回る勢いが付いているので、頭を打つような倒れ方をすることもある。

側宙は前宙よりは着地が失敗しない猶予が広いので着地がしやすいと思う。また、回りながら首だけ床を見て、バック宙の雰囲気を感じてみたりできる。

ただ、バック宙をやる時は、いきなりバック宙をやろうとした方が良いと思う。側宙の体勢を後ろに変えていけば慣れるだろうか…なんてやっていると、斜めに飛ぶ癖が付いてしまったりするからだ。身体の動かし方は全く違うので、「後ろに回る恐怖心」は後ろに回って乗り越える他ない。

床で練習する時は「ふかふかマット」を使わない

バック宙は真上に飛ぶものなので、後ろにふかふかなマットを置いてそこに着地しようとはしないこと。飛んだ場所と着地する場所はほとんど同じになるのが望ましいので、ふかふかなマットは邪魔になる。

まして、ふかふかマットの上でジャンプしようものなら、高さが出せず頭から落ちてしまう。

ココは最初は怖いだろうが、小学校の体育で使ったような、平べったい体操用マットの上でやるのがオススメ。ジャンプする時のエネルギーも吸収されずに済むし、それでいて倒れた時の衝撃は意外と和らげられる。

イメージトレーニングをとことんやっておけば、「この程度のジャンプ力で、必要なだけ身体を回しきれるな」という自信が身についているはずである。最初は恐怖心はあるだろうが、「ココでこう膝を抱えて、こう目線を変えて、そうするとこういう勢いが付いているから、これどおりにやれば成功する」というイメージを忠実に再現することに意識を持っていくのだ。

頑張って挑戦した時は、ぜひ動画を撮っておいて、自分が思っていたとおりに回れているか見てみると良い。僕の場合は、やはりしゃがみ込み過ぎる癖があって、ジャンプの高さが思ったより出せないことが多かったので、跳躍する時は気を付けていた。

色々話したが、とにかく「イメトレが大事」で、「イメージを付けるために沢山のサンプルを見て知っておくこと」である。沢山のサンプルを見て分析していくことで、「後ろには飛ばないんだな」とか、「膝を抱え込んだら地面を見ているな」とか、そういうことに気付いてくるはずだし、「こうすれば良い」を細かくイメージしてそれを再現することで成功できるはずだ。

バック宙したいと思っている人、ぜひこれを参考に習得して欲しい。

自分も機会があったら、10年ぶりのバック宙をどこかで試して、動画で披露したいと思う。