デール・カーネギー「人を動かす」を読んだ

ぼくは自己啓発本をなんとなく眺めるのが好きだ。買った冊数はそんなにないけど、立ち読みは良くする。

読んで損するようなことは書いてないし、直接的に自分のためになることが書かれているからだ。

漫画や小説は読まないけど、何らかの即効性がある自己啓発本は、とりあえず眺めてみるようにしている。


そんな自分だが、以下のような文章を見かけた。

自己啓発本って、買うのは3冊ぐらいでいいんです。漆原直行さんという人が分析しているんですが、すべての自己啓発本は3つの種本というか、ネタもとに行き着くそうです。

一つはナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』、二番目はデール・カーネギーの『人を動かす』、三番目がスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』、これだけです。

この3冊の要素をいくつか引っぱってきて、あと強いて言えばドラッカーで味つけして、後は自分の体験を入れれば、自己啓発本ができ上がる。まあ、これ以外の本も元ネタになるのだけど、結局、この3冊の影響を受けているわけで。俺は東大に受かるためにこうしたとか、リクルート時代にこんな手柄を立てたといった体験談に、ちょっとしたプチ・ライフハックを加えて。

自己啓発本はこの3冊で良いとな。ではこの3冊を読んでみようか、と。

「7つの習慣」は会社の研修でも受けさせられたことがあったけど、2005年ぐらいに流行ったんじゃなかったかな、と。んで当時いくつかの本や雑誌なんかで取り上げられているレベルのことは知っていた。残り2冊も名前は知っていて、「ザ・シークレット」という本とビデオがこれまた2007年頃に流行ってたのを見て、存在は知っていた感じ。

↑コレコレ。ニコニコ動画でも吹き替え版の動画が見られる。

これらの3冊を発行年代順に並べると、

  1. デール・カーネギー「人を動かす」(1936年、文庫版は1981年頃の改訂)
  2. ナポレオン・ヒル「思考は現実化する」(1937年、文庫版は1999年頃の補訂)
  3. スティーブン・R・コヴィー「7つの習慣」(1989年、完訳版は2013年出版)

という感じで、「人を動かす」「思考は現実化する」は最近文庫版が出ていて、中でも「人を動かす」は1冊で終わる (「思考は現実化する」の文庫は上下巻) ので、まずは「人を動かす」から読んでみようと思った次第。

この文庫版を買って読んだ。

感想・私的要約ごった煮

ということで、読んだ感想とか、気に入ったところとかを書き殴ってみようと思う。

「自己啓発書の元祖」と言われるこの本。まずどんなことが書いてあるのか、ということだが、ざっくりいうと「他人に自分が思ったように動いてもらうには、まず自分から変えていかないとね」ってなことを色々な方向から書いているものである。

この本はなにも、「上司が部下をうまく動かす方法」とか「人を思いのままに操る術」とかいう方法を説明しているわけではない。平たく言ってしまえば処世術、人と上手くやっていくための方法論・アドバイス集と言えるので、どんな立場の人が読んでも応用させられる、コミュニケーションの基礎を解説した本とも言える。

具体的にどんなことに触れているのか、というと、実は Wikipedia にも載っている「目次」がそのものズバリだったりする。

  • 人を動かす三原則
    1. 批判も非難もしない。苦情も言わない。
    2. 率直で、誠実な評価を与える。
    3. 強い欲求を起こさせる。
  • 人に好かれる六原則
    1. 誠実な関心を寄せる。
    2. 笑顔で接する。
    3. 名前は、当人にとって、最も快い、最も大切な響きを持つ言葉であることを忘れない。
    4. 聞き手にまわる。
    5. 相手の関心を見抜いて話題にする。
    6. 重要感を与える - 誠意を込めて。
  • 人を説得する十二原則
    1. 議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。
    2. 相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。
    3. 自分の誤りをただちにこころよく認める。
    4. おだやかに話す。
    5. 相手が即座に'イエス'と答える問題を選ぶ。
    6. 相手にしゃべらせる。
    7. 相手に思いつかせる。
    8. 人の身になる。
    9. 相手の考えや希望に対して同情を持つ。
    10. 人の美しい心情に呼びかける。
    11. 演出を考える。
    12. 対抗意識を刺激する。
  • 人を変える九原則
    1. まずほめる。
    2. 遠まわしに注意を与える。
    3. まず自分の誤りを話した後、相手に注意を与える。
    4. 命令をせず、意見を求める。
    5. 顔を立てる。
    6. わずかなことでも、すべて、惜しみなく、心からほめる。
    7. 期待をかける。
    8. 激励して、能力に自信を持たせる。
    9. 喜んで協力させる。

この目次を眺めて、深く理解できたようであれば、本の中身はもう読まなくていい。そのくらい「当たり前」のことを書いている。

それでもこの本が評価されているのは、こうした「当たり前のこと」がいかに大切であるか、「当たり前のこと」を実践するにはどうしたらいいか、を学べる、具体的で分かりやすい実体験・成功例が述べられているからだろう。

ただ「人の話をよく聞こう」と言われるだけでなく、「あるところにこんな人がいて、こんな問題にこう対応した、それによってこんな成功を収めた」という風に、様々な成功例が書かれている。原書が1936年頃の本なので、今となっては古臭い設定の話もあり、作り話じゃないかと思うような話もある。

だが、それが作り話であろうと、「それを読んだ自分がどのように行動を変えていくか」には関係のないことで、その作り話かもしれない話の中から得られた原理原則・テクニックがあれば、そしてそれを実践したことで上手くいくことがあれば、別に構わないことだろう。

ぼくはこれまで、「自分が正しいことを言っていれば、間違っている相手は直してくれるものだろうし、直すべきものだろう」とか、「仕事をする上で自分の気持ちなんてモノを挟み込むべきでない、事実と成果だけを見るべきだ」と思っていたが、この考え方はうまく行かなかった。結果だけ見ると、客よりもぼくの方が正しいことを言っていて、ぼくが提案した施策を取り込んでおけば客は困らなかったのだが、それを提案するときのぼくの話し方が悪くて、「お前は正しいことを言っているかもしれないが、お前の言い方が気に食わないから聞き入れない」といわれ、客は独自のやり方を選んで、結果自滅する、ということが多かったのだ。客が失敗したときのリカバリーもぼくの仕事になるので、本当に面倒臭い結果になってしまうのだった。

そんなことが続いていた時にこの本を読んで、ぼくが無視するべきと思っていた「人の気持ち」がいかに大切か、そしてそれを操作する術というのは今まで見聞きしてきた「しごく当たり前のこと」ばかりであることに気付かされた。

平たく言ってしまえば、自分が「たかが自分の気持ちだろ」と軽視していた、大したことのない部分をちょちょっと操作してやるだけで、自分が通したい意見を通せたりする。そういうわけだった。

特に自分が実践した原則は、以下あたりだった。それぞれ、その原則に従って自分が変えた行動を書いてみた。

最後に強調したが、「とにかく相手を気持ちよくさせる (悪い気持ちにさせない)」という、相手の気持ち・感情を尊重してやることが大事だと分かった。残念ながら、客観的・論理的に正しいかどうかだけで動いてもらえる人は少ないということだ。

こういう「相手の気持ちを考える」のって、嫌いな相手には露骨にできなくなってしまうので、「好きな人にならどんな風にしているだろう」「この人が好きな人だったら、どんな配慮を自分はするだろう」というようなことを考えて接するようにした。まずは人を嫌いにならないようにする方が良いが、嫌いになったとしても、こうした「テクニック」で乗り切ることは可能である。

以上

相手に気持ちよく話してもらい、相手に気持ちよく話を聞いてもらう。それだけで自分の思った方向に相手を操れる。

「あの人と話すと気分が良い」「あの人のためになら少し頑張ろうか」と思ってもらう。

人を動かすためには自分のやり方を変える、というのが、「人を動かす」の本当の意味だと思った。