転ばぬ先の杖は欲しがっていない人に渡しても無意味

自分がよく知る作業を後輩がやっているのを見ると、2歩3歩先のタスクまで見えてしまい、ついつい

「次のこの作業で、ココにみんなつまづきやすいから、予めデータをこうやって直しておいて、アレしてからやるといいよ」

なんて口出ししてしまったり、

「この次の次の画面なんだけどね、ココが変だなぁと思われるかもしれないんだけど、客とこういう打合せをしてこういう経緯でそこがああなっていて、だから仕方なくこういう仕様になっているんだよね、だからこの画面でアレするときはこうして…」

なんてその後輩が知らない情報を沢山与えようとしてしまったりしがちである。


しかし当の後輩はというと、今やっている作業が初めてで目の前のタスクに精一杯で、なかなか聞いて覚えておくことはできない。

また、その長ったらしい説明でも語りきれない色々な情報がインプットされていなかったりするから、自分が懇々と説明したところで、後輩はやはり理解しきれない。

後輩にとっては今目の前にある作業とは関係のない、意味不明な話を長時間されているという感覚だけで、なんら助けにならない。

残念ながら、上司の親切心、転ばぬ先の杖、「自分と同じ苦労はしてほしくない」といった思いは、なかなか通じないものである。


「自分と同じ苦労をみんながすること」はできるだけ避けたいものだが、それを押し付けてもなかなか浸透しない。ものによってはどうしても、「各自同じ目に遭遇してもらって勉強しないと理解できないこと」もあるのだ。

絶対にミスされては困るようなインパクトの大きい作業は別として、そうでないものであれば、事前にあれこれと口出しするのは止めて、後輩にも実際に自分と同じ目に遭ってもらって苦労して解決してもらう時間も必要なのだ。すごく無駄があるように感じるが、これは削減できる時間ではなく、人材育成上避けられない時間だと割り切るしかない。

上司として何か働きかけをするのであれば、後輩が実際にトラブルに遭遇し、色々調べ始めたり困り始めたりした時に「進捗どう?困ってることとかない?」と声をかけて聞いてやるのが精一杯だろう。

また、「この仕様がこうなった経緯はね…」といった話は、自分の苦労話、自慢話に繋がりやすく、後輩がその瞬間に覚えておく必要のない情報であることが多い。先輩風を吹かせたくなっている自分には早めに気付いて、後輩に口頭で教える情報は最小限に留めるように努めよう。

自分が踏んだ轍は後輩や部下にも踏んでもらった方が良い時も多い、というか、多くは実際に踏んでもらった方が、結果的に色々と早くスムーズにいくかもしれない、という話。