後輩部下には根拠や理由を説明しない
後輩部下に自分で考える力を付けてほしくて、質問を受けた時に色々と考えさせてみたりとか、何かを教える時にその理由や根拠、それ以外の選択肢に関する話なんかを懇々としていたのだけど、ついに「これは何ら効果のない教育方針だ」と気付かされたので止めることにした。
聞きたくない話をしている
まず、大抵の後輩は「短絡的・直接的な答え」しか望んでいない。自分が望む答え以外の情報だと感じた瞬間から「聞いているフリ」をする。あとで「前に話したよね?」という事態になればその場は謝りはするが、本人的には恐らく「そっちが勝手に話したくて話したんだろうが聞きたかねえんだよ」と思っているのだろう。事実そうだ。いくら話す側が「話して伝えておくことが重要だ」と思っていても、聞く側に聞く気がなかったら効果はない。
これが繰り返されると、先輩上司としては「コイツは人の話を聞かないで同じ失敗を繰り返している」と後輩部下を評価するし、当の本人は「小言の多いうるせぇ野郎だ」としか思っていない。「後輩部下のためを思って」は通じないしその思いが実ることはないので最初からそいつの成長なんか考えてやる必要ないのだ。やるヤツは一人でもやる、やらないヤツは絶対にやらない。
聞いても分からない話をしている
前提というか、基本は「聞く側が求めていないことを話しているだけだから効果がない」だと思うのだが、その次に思うのは、「やっぱり経験がないといくら聞いても分からない」ってことだと思う。
本人に学ぶ気があって、一生懸命だとしても、経験量や経験年数が見合っていないと、いくら人から話を聞いても自分の糧にできない。そういうものみたいだ。
あまり話すことが得意ではない上司は、説明なしに「真似て覚えろ」と言ったりするが、これがあながち見当違いでもないというか、説明したところで分かるレベルに達せていない人には分かれないものなのだ。
いくつかの選択肢がありそうなのに、なぜ上司はこの手法でやれと指示をしたのか、なぜこちらの手法は指摘されたのか。細かい理由を本人から聞いてきたとしても、やっぱり理解できないものなのだ。
「先人と同じだけの時間をかけなくて済むようにするのが教育」だとは思っているし、そうであって欲しいから、そうできるように色々と理屈を説明して伝えてきたつもりだったが、理屈が理解できるようになるには経験が必要なのだ。経験に対して後から理屈をつけていくから腑に落ちるのであって、理屈だけ聞いても経緯や文脈が自分のものになっていないから、応用できないのだ。
そうと気付けば、経験のない人間にいくら理屈を伝えても無駄なことだと分かる。
根拠や理由を説明せず、答えだけ伝える
そういうワケで、今までなら「○○のやり方で困っています、どうしたら良いでしょうか?」といった質問を後輩から受けた時に、
「○○をやるには3つ方法があって、① は HogeHoge がベースになっているから FugaFuga で、② は FooBar な時限定なんだよね。③ が標準的ではあるんだけどそのタスクだと PiyoPiyo を考慮しないといけないから ③ の間に ① の手法を挟んでやるといいと思うよ」
なんて答え方をしていたのだが、最近は
「○○をやりたいのね。じゃあ ③ の間に ① の手法を挟んでやるといいよ」
とだけ答えるようにしている。
今のところ、残念ながら「どうしてそうなるんですか?」とか、「② じゃダメなんですか?」とか、逆質問や確認を取ってくるような後輩はいない。他のことは一切気にならず、自分で考えていないし、まだ考えられない年齢だということだ。
彼らが理屈を学んで、見聞きしたことを知識・知恵にするかは本人次第だ。これは残念ながら「OJT 教育」というフェーズでやるべきことじゃなくて、義務教育の段階で、色々なものにアンテナを張り、自発的に学ぼうとする習慣が身についているかどうかなのだ。会社に入ってくる時点でその人の質は既に決まっているといっても良い。今さら、たかだか一会社の、一現場の一上司がどうこうできる問題ではないのだ。
先輩上司も楽になる
本人が望んでいそうな短絡的な答えだけを返して、「コレをゴールデンハンマーだと思わないでほしいなぁ」とか「こういうところも考慮してほしいんだけどな…」とか思っても、それを言わないようにすると、最初は言うのを我慢していることにストレスが溜まるが、不思議なことにすぐに楽になる。
成果物のレビューは必要なところでやるので、誤りを見過ごすワケではないし、特に問題ない。レビューの時にくだらない指摘が山ほど挙がるが、予め言っておいても聞いてないので、「前もって言っておけば時間短縮になったのに」なんてことはない。
だったら、お互いの作業時間を増やすためにも、先輩上司からの小言は止めて、後輩部下には未熟者なりに仕事を進めてもらっていた方が良い。予め言い聞かせることができないのだから、「工程が進むと前工程の不具合が現れる」というマーフィの法則を応用して、あえて (未熟なままでも) 工程を進めてしまい、(レビューのタイミングで) 作業の不具合をあぶり出す方が効果的・効率的だろう。
自分が先輩上司として何をしても、後輩部下は育ちはしない。自分で考えて動ける、望むような部下は手に入らないから、早いところ諦めて淡々とやることだけやらせればいい。