「The Greatest Showman グレイテスト・ショーマン」を観た

3/1 (木)、会社終わりに新宿 TOHO シネマズに行って、ヒュー・ジャックマン主演の「グレイテスト・ショーマン」を観てきた。

観てから数日経つが、日ごとに感想が変わっていくので、感想を書くのがとても難しかった。でも一貫して言えるのは、パワフルな娯楽映画だったってこと。

以下ネタバレもしながら感想を雑多に書くので、ご注意を。


実在の人物がベース

ヒュー・ジャックマン演じる P.T. バーナムは実在のエンタテイナー。ディズニー映画「ダンボ」に代表されるような、「サーカスショー」といえば、というイメージを最初に作ったような人物。作中のように、何らかのハンディキャップを持ち、当時「フリークス」と差別されてきた人たちとともにサーカスを作り上げたそうだ。

本作はこの史実に沿っていて、登場人物や出来事はほとんどは、実際の記録がベースになっているようだ。

行間が多いような…?

実在の人物、そして実際の出来事がベースになっており、またそれを「ミュージカル映画」としてまとめている都合上、作中で時間をかけて描かれない部分が多い。

ただでさえミュージカル映画は情報量が少なくなる性質があるのに、この作品は意図的に情報量を絞っているようだった。バーナムの夢と現実の乖離、そして夢を実現していく様子を描くためには、こうした表現の仕方になるのは仕方ないのであろう。

しかし、例えばフリークスと馬鹿にされてきたサーカスの出演者達が、成功だけを求めて離れてかけてしまうバーナムをどう許す気になったのか、そういったところがきちんと描かれていないように感じてしまい、結局「ミュージカル」で誤魔化されてしまう。

なんというか、登場人物の行為の原動力というか、妥当なきっかけが見当たらないように感じてしまうのである。そしてそれを「観客の想像」で補うには少し多い気がしてしまい、すとんと腑に落ちないところがあった。

バーナムの伝記、という意味では、ミュージカルシーンの前後に「客観的必然性」があまり感じられなくてもいいのかもしれない。どうであれそういう結果に至った、というのが事実なのであり、事実はそこまでドラマチックな理由でばかり動かなかったりするのだろう。ストーリーに深みがないのは仕方ないのかも。

とはいえ、作品では「差別された人々」を大きく扱っているために、彼らがバーナムを許したりする時の納得感が、観客にも十分に得られるように見せてもらえたら良かったなぁ、とは思う。

ミュージカルシーンの力強さは「Greatest」

さて、ミュージカル、ダンスシーンはどうだったというと、コレは間違いなく素晴らしい。バーナムの理想だったり、人に夢を魅せる姿だったり、虐げられてきた人々の苦悩と解放だったり、その瞬間、その人達の気持ちを音楽と映像で見事に表現している。

冒頭の「The Greatest Show」で、「CM で見たアレ」をいきなり見られるのは本当に興奮するし、それが「少年の夢」に落ち着くフェードも見事。

ショーのシーンは CG が多用されているが、CM 等の宣伝文句に引っ張られて「ラ・ラ・ランド」だと思って見ているとちょっと落差があるかも。こうした CG は、バーナムの夢である「グレイテスト・ショー」を一画面に凝縮させるための演出が目的なのであって、ダンスシーンは実際に演じられたもの。スタントダブルでもなんでもないので、CG が見えてもそこにガッカリしないでほしい。

ちなみに、この作品は「そこ CG だったの!?」というようなところが結構多いので、違う意味で VFX Breakdown に驚けるかも。

バーナムと妻チャリティの夢を描いた「A Million Dreams」で、初恋の女性を射止め、貧しいながらも幸せな家庭を築くところまでを一気に描き、それでも止まないバーナムの野望が表現されている。ここのヒュー・ジャックマンとミシェル・ウィリアムズのダンスは本当に美しい。

そしてバーナムは劇団を立ち上げるわけだが、そこで流れる「Come Alive」も本当に元気が出る曲。

ザック・エフロンも出てくるし、なんだか「ハイスクール・ミュージカル」みたいな曲調だな?と思った。作品の舞台は19世紀であるにも関わらず、現代のシンセや打ち込みの音を多用している。単なる時代劇にするのではなく、バーナムの人生を題材にしつつも、テーマは現代に通じているミュージカル作品として昇華させていることが伺える。

文句なしにカッコイイのは、ヒュー・ジャックマンとザック・エフロンがタイマン張る「The Other Side」。マジでブチアガるぞ。

歌姫ジェニー・リンドとの興行が成功し、徐々に劇団から離れていくバーナムに対して、メンバーたちが自らのあり方を自分で肯定する、「This Is Me」。「ヒゲ」ことレティを演じるキアラ・セトル本人も思い入れの強い楽曲なようで、本当にパワフルなナンバーだ。

この作品を映画化するかどうかを最終決定するワークショップ・セッションがあったそうなのだが、以下はその時の映像。スッピンのキアラ・セトルがサントラに負けない「本気」で歌い上げている。

This Is Me のブリッジで、レティ以外の演者がスローモーションで宙に浮かぶ中、レティだけが通常速度で歌う、という表現のカットがあるのだが、コレってフレッド・アステアの「Stepping Out With My Baby」(映画「イースター・パレード」) が元ネタかなぁ?コチラは「アステアだけがスロー」だけど。

虐げられてきた人々の「自己肯定」を表現した「This Is Me」に対し、ザック・エフロンとゼンデイヤのダンスが魅せる「Rewrite The Stars」は世の中の差別や迫害に対する苦悩がより表現されている。最終的に「It feels impossible (無理だと思う)」と歌い残して、二人は離れてしまう。

ショービジネスの成功ばかりを追い求めて、いつの間にか色々な歯車が狂ってしまったバーナムが、心機一転やり直す時の歌が、「From Now On」。コチラも本当に力強い。ヒュー・ジャックマンの歌唱力が遺憾なく発揮されている。

こちらも映画製作が始まる前のワークショップ・セッションより。ヒューは直前に皮膚ガンの手術を受けたばかりで、本当は歌うなとドクターストップがかかっていたようだが (ヒューの右側にいる男性が歌の代役)、ついつい歌ってしまったとのこと。映画の企画にも携わっていたヒューの熱い想いがこの曲に集約されている。「ソードフィッシュ」の頃から随分大きくなったわね……と親御さん気分。

ところで、途中でバーナムから離れていってしまう歌姫、ジェニー・リンド。彼女への救いも欲しかったなぁ、と思った。史実では公演は中止せず最後までやったみたいだし、バーナム自身と境遇が似ていた彼女をそのままに終わるようなストーリーなのは、ちょっと残念かも。

ラストは「The Greatest Show」がかかる。この最後のミュージカルシーンが、冒頭のバーナムの夢のシーンからの昇華に繋がるのが本当に良い。サントラは1曲目が「The Greatest Show」、最後のトラックが「From Now On」なのだが、そのまま CD を放っておくとトラックが1曲目の「The Greatest Show」に戻り、2度目に聴いた時のこの曲の印象がガラッと変わるのが面白い。サントラは買って良かったと思う。

娯楽性を重視したミュージカル映画

じっくり考察して整合性やストーリーを分析するのではなく、もっと気楽に楽しんだ方が良いミュージカル映画かな~と思った。深いテーマ性とか、感動大作みたいなモノを、無意識のうちに求めすぎていたのだろう。

作品の中では「フリークス」が取り上げられているが、彼ら自体を細かく描くのが目的ではなく、彼らのように「自らのあり方に悩んでいる」人、夢を諦めている人が辿り着く「This Is Me」を描くことを重視した作品なのかな、と思う。だからこそ楽曲にも最近のエレクトロニックが使われていて、決して過去の古い話ではない、むしろ今現在のことを描いているのだと思った。

単純に、ダンスや歌の奥から伝わってくる力強さ、音楽と映像の融合を味わい、堪能する。そんな映画として観ると、この映画がじんわりと自分の中に染み込んでくると思う。