死体役のダニエル・ラドクリフが名演を見せる「スイス・アーミー・マン」を観た
2016年の映画「Swiss Army Man スイス・アーミー・マン」を観た。
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タイトルとポスターからなんか変
「スイス・アーミー」とは、十徳ナイフ (スイス・アーミー・ナイフ) から来ていると思われる。「スイス・アーミー・マン」というと、さしずめ「十徳男」といった意味になるか。
よく見るとなんだかポスターからおかしい。ヒゲボーボーのお兄さんが、ダニエル・ラドクリフの首にベルトを括り付け、ダニエル・ラドクリフにまたがって海を疾走している。
意味が分からないまま映画を見始めると、このポスターは冒頭5分の様子だと分かる。
冒頭のあらすじ
無人島に一人漂流し、助からないと悟ったハンク (ポール・ダノ) が自殺をしようとしていたところ、海岸に流れ着いたダニエル・ラドクリフの死体を見つける。彼は死体であるにも関わらずオナラをブチかましまくっており、オナラの力で海に出ようとする。これを見たハンクはダニエル・ラドクリフにまたがり、彼のオナラブーストでボートよろしく推進力を得て、無人島を脱出するのだった…。
…もう冒頭から意味が分からない。
無人島を脱出し、別の島に辿り着いたものの、そこも無人島だったことでハンクは落胆したが、死体のダニエル・ラドクリフに意思が戻り、彼は喋れるようになる。
無人島に転がっていたグラビア本に興味を持ち、股間に異常をきたすダニエル・ラドクリフ。生前の記憶はないようで、やたら子供っぽい反応を見せるが、同時に彼は飲み水を口から吐けたり、膨張した股間が方位磁針の役割を果たしていたりと、なぜか無人島脱出に役立つ機能が備わっており、ハンクも見捨てるに見捨てられない。こうして、不思議なコンビの共同生活が繰り広げられる…。
オナラをしてもいいんだよ?
人前でオナラをし、グラビア本を見ては平気で勃起し、ヤリたいヤリたいと騒ぎ出す。どこまでも本能に忠実な死体のダニエル・ラドクリフと、一方で、自分と死体しかいない空間でも、オナラは影でこっそり済ませ、気になっていた女性にも声をかけられずに生きてきた主人公のハンク。
一見すると、ハンクの方が周りに配慮できる大人で、欲求に忠実な死体は子供っぽいように見えるが、この映画を最後まで見ていくと、この考えが揺らいでくる。
すなわち、人として生きる時に、何を大切にするのか、という話だ。現代社会で求められる「エロなんて表に出さず、誠実で、皆に配慮した生き方」もあるだろうけど、「オナラは自分がしたい時にする、好きになった人には好きだヤリたいと言う、世間体ではなく自分自身の尺度で生きる生き方」というものが、死体のダニエル・ラドクリフによって提示されるのだ。
そんな生き方が到底受け付けられないという現実は、この作品のクライマックスでも描かれている。もちろんこの作品が示す「自分の生き方は自分で決める」という生き方の例は極端で、そのまま真似したりするモノではないと思うが、これらもよくよく考えると、「なんで皆オナラはしたくなるのに、人前でしちゃいけないんだ?」と考えることもできるだろう。
世間体って何?「社会の価値基準」って誰が決めたことなの?それって自分自身にとって本当に大切なこと?
そんなことを、オナラをぶっ放して海に帰っていく死体から考えさせられる、メチャクチャ笑えて、意外にも深い、興味深い映画だった。