中3の時に僕の机にゲロ吐いた女の子に謝りたい

タイトルはちょっと盛った。


長い経緯

僕は中学の頃に2度ほど転校していた。中1の途中で地元・横浜から長野県へ、丸1年後の中2の途中で長野から京都へ、そして中3に上がった直後に京都から地元・横浜に戻った。この、京都で過ごした約半年間の時に、タイトルの女の子と遭遇している。

長野の中学でもそうだったが、京都の中学は特に方言や「京都文化」が強くてクラスに馴染めなかった。そんな中で、クラスのある女の子だけが、時々自分のことを気にかけて話しかけてくれていた。その度に僕はそっけない態度を取っていたし、話が続かなくて気まずい空気が流れた。

僕はクラスメイトと馴染む気がなかった。どうせよそ者だと思われているし、こっちも京都なんて田舎の人間のことは見下していた。それでもその子は、一人で過ごす僕を時々気にかけてくれていたようだった。

京都に引っ越して5ヶ月後、三度父の転勤が決まり、地元横浜に戻れることになった。京都からオサラバできるまであと1週間となったある日、事件が起きた。

授業中、僕の後ろの方にいたその女の子が急に席を立ち上がり、僕の座席の後ろを通った…かと思うと、急に

オ゛エ゛ーッ

と、戻してしまったのだ。

教室のど真ん中、どこを向いても誰かが座っている。その子も行き場がなかったのだろう。「ウッ」とうつむいて戻したその先が、僕の座席だった。

僕がその異音で振り向きながら席を立つと、ちょうど僕の肩をかすめるように、その子のローゲーが、僕の机にかかった。

どのぐらい机に直撃していたか、どのぐらいの量だったか、細かいことは忘れたが、その子は教室の真ん中でゲロりんちょしてしまい、僕はその被害者 (の、多分何人かいた内の一人) になってしまったのだった。

小学校の頃って割とすぐ体調崩して教室でゲロるヤツいたなーと思うんだけど、中学に上がってからはほとんどなかった。みんな自分の体調も分かるようになってくるし、具合が悪くなったら早めに早退するものだ。

でもその子は、恐らく急に具合が悪くなってしまったのだろう。中3というと年頃だし、色々と身体の変化もあったりしたのか、それでも無理をしてしまったのか、詳細は分からないが、とにかく、授業中の教室で、ヤっちまった。

その子は保健室に向かい、自分も何故か保健室に向かった。洋服にかかったかな?と思ったが、服は無事だったと思う。念のため上履きを拭いたりしたかもしれない。付添のクラスメイトの子と一緒に、その女の子がベッドに腰掛けていた。体調は治ったようだが、ショックだったのかタオルで顔を押さえながら泣いていたと記憶している。泣きながら「ごめんなさい」と謝られたので、「いや、大丈夫だよ、被害なかったし」と答えたと思う。

が、実は被害があった。

その子はそのまま早退して、僕は教室に戻った。教室は先生やクラスの人達が掃除してくれていたようで綺麗になっていたが、僕の机の上にあったファイルやプリントは助からなかった。

そしてどういうワケか、先生がこう言った。

「悪いけどこのプリント、コピーが取れなくてな、(プリントを綴じる) ファイルも替えがないから、このまま使ってくれな」

…えっ。

誰かが拭こうとしたらしいものの、明らかにソレと分かる、液体の飛び散った跡が染み付いた、そのプリントとファイルを、このまま使えと…?

さらに、自席に座ってみると、もうどこにもブツは残っていないが、その、なんだ、臭う。…臭うのだ。

ゲロの付いたプリントを使い、ゲロ臭い机で、残りの1週間を過ごさないといけないのか?

どうやら「そうだ」ということだった (今じゃ考えられないだろう…)。

1週間という期限が見えてはいたものの、そう我慢できることじゃなかった。親に頼んで、エタノールや消臭スプレーを小さなアトマイザーに入れてもらい、翌日早めに登校して、誰もいない教室で自席に振りまいたりしたが、やっぱり臭かった。

「加害者」のその子も、多分翌日かその次の日には復帰していたが、僕との会話は特になかった。でも僕は転校するまでの1週間、強く「その子」の香り…というか…スメルを感じながら過ごした。

転校当日、クラスの人には一切周知しなかったので、「今日で Neo 君は転校します」という先生からの連絡でわずかなどよめきがあったが、別にみんなは仲良かったワケでもないので、「おぉ、そっかー…」ぐらいで終わった。

最終日の放課後、荷物を全て抱えて教室を出ようとした時に、その子が声をかけてきた。「あの、色々とすみませんでした、転校しても、お元気で」とか、そんなことを言ってたと思う。僕は多分、「あぁ、うん、じゃあ」ぐらいの感じで、適当に流して教室を出たと思う。

その子とはそれっきり。当時ケータイは持ってなかったので連絡手段もないし、卒業した中学校はその中学じゃないので、卒アルもない。京都全体に興味がなかったのでその子の名前も覚えていない。

何となく思い出す

その当時も、「机に残る臭いがツラい」ぐらいしか嫌なことはなくて、その子が戻してしまったこと自体は別に気になっていなかった。

だけど、京都に馴染めなかった自分を「孤独で惨めな人間」みたいに感じたくなくて、「コイツらのことはこっちから嫌っているのだ」「俺の方がコイツらを下に見ているのだ」というスタンスで過ごしていた僕は、その子が話しかけてきても無視するように流していたし、その子の謝罪の言葉も蔑ろにした。

転校する日の最後に声をかけてきたその子を「流して」帰ろうとした時の、あの子の微妙な表情を、今もやけに覚えている。

ゲロの一件については僕が完全に被害者であるものの、その前後含め、あそこまで冷たくしなくても良かったのに、と、反省している。クラスの中でも明るい子で、友達もそれなりにいたように見えていたので、杞憂に終わるかとは思うが、あの子がこの時のことを気にして、内向的になっていたりとか、臆病な性格になっていないだろうか、とか、ちょっと気になっている。

10年以上前の記憶で、名前も覚えていないが、もしできるなら、あの子にちゃんと話をしたいな、と、ぼんやり思っている。「君が謝るほど気にはしていなかったよ (机に残った臭いがちょっとキツかったけど)」「何度か話しかけてくれていたのに、無視して悪かった」と、ちゃんと伝えたいなと思う。

あの子がこの一件のこともすっかり忘れて、「そういやあの頃ネクラな男子がいた気がするなぁ〜」ぐらいに思っていてくれるならいいんだけど、もし気にしていたりしたら、別に大丈夫だよ、こっちも悪かった、って一言言いたいな、と思って、書いてみた。