「トータルで下手」な人たち

僕が現在務める会社に行く道のりは、横断歩道が若干多い。50m 歩くごとに信号に捉まってしまい、朝の通勤ラッシュ時は特に、足止めされている感覚に苛立ちを覚えなくもない。

とはいえ、別に遅刻の心配はないし、急いで出社してやらなくてはならない仕事もないので、僕はのんびり信号を待っているのだが、他所様は何やら急いでいるらしく、横断歩道前の人混みをかき分けて最前列に行き、歩行者用の信号が赤に変わる前から横断歩道を渡り始めている。

赤信号なのに渡り始めてしまうくらいなら、どうして赤信号の「最中」に渡り始めないのか。この人がしびれを切らすタイミングと、クルマの交通もまだあるのに渡り始められてしまう神経を疑うのだが、まぁもう少しこの人を観察してみよう。

その人が赤信号の横断歩道を渡り始め、道の真中に到達したあたりで、信号が青に変わり、僕が渡り始める。この道路は車線が多いので、横断歩道の距離が多少長い。僕は別に走ってもいないし、のんびり歩いているのだが、横断歩道を渡り切って歩道に入ったあたりで、僕は先程フライングした人を追い抜かしてしまった。この人は青信号に切り替わるのを待てないほど急いでいたのに、結果的に僕の方が先に横断歩道を渡り終えたのだ。


その人を追い抜いてペタペタ歩いていると、2つ目の信号が近付いてきた。歩行者用の信号は点滅している。すると僕の後ろから、先程フライングした人が走って僕を追い抜いていき、青信号が点滅する横断歩道に飛び込んだ。と同時に信号は赤に変わり、その人は完全に赤信号になっている中、駆け足で横断歩道を渡って行った。

日本のクルマは歩行者に優しいので、赤信号を渡っていても人を轢くことはまずないだろう。しかし僕は、香港のホテル前で、ホテルのフロントから出ていこうとするタクシーに轢かれかけたことがある。運転手に殺意があろうとなかろうと、いざとなったらぺしゃんこに押し潰されるのは人間側だ。あの一件以来、僕は横断歩道にはよりいっそう気をつけるようになった。

そんなワケで僕は赤信号を急いで渡ることはせず、待つことにした。この横断歩道は車線が少ないので、比較的すぐ青信号に切り替わる。30秒もすると、青信号に変わったので、僕はまた歩き始めた。


そうして3つ目の信号が見えてきた頃、目の前には先程駆け足で横断歩道を渡っていった人がいた。この人も別に歩行スピードが遅いようには見えないし、よそ見や寄り道が多いワケではないようだが、3つ目の横断歩道を渡る前に、僕はその人をまた追い抜いてしまった。

最終的に、僕が自社のビルに入る時、その人は僕の少し後ろを歩いていて、その次の横断歩道に駆け込もうとしてダッシュし始めていた。


焦って慌てて、信号に引っかからないよう急いで、朝からダッシュしてヘトヘトになって。その結果。

最初から最後まで走ることなく、信号はちゃんと待って、汗っかきなのに汗もかかずにのん気に歩いていた人間と、ほぼ変わらない、という。

なんかこう、要領が悪いというか、効率が良くないというか、費用対効果が低いというか。無駄が多いなぁ、と感じた。

…という話を妻にしてみたところ、こんな一言をもらった。

「いるよね、そういう『トータルで下手な人』って。」

…なんとピッタリな言葉だろう。トータルで下手。

別にこういう人が自分より早く通勤できようができまいがどうでもいいし、この人達が効率良く、トータルで上手に生きてくれようがくれまいが、自分には本当に何の関係もないんだけど、僕はどうしても、こういうトータルで生き方が下手クソな人を見ては、その下手クソさ加減を見てムズ痒くなってしまう。