映画「告白」を観た

久々に邦画。2010年の映画。

何の予備知識もなく見たら衝撃的だったので、コレをライブで味わいたい人は、ぜひ今から書くネタバレあらすじを読まないように。


映画は中学1年生の担任教師である松たか子が、終業式後のホームルームで語り出すところから始まる。

私の娘の芦田愛菜はこのクラスの生徒2人に殺された」「その一人、『A』には殺人衝動があり、計画的に犯行を行ったが、彼自身の行動では娘は死ななかった」「もう一人の『B』は、『A』の指示に従うだけで殺意はなかったが、最終的には彼の行動によって娘は殺された」と、あくまで淡々と語る松たか子。

この学校では牛乳を積極的に飲む取り組みを行っていて、ホームルームの直前にも牛乳が配られてクラス全員が飲んでいた。その牛乳について、松たか子は「犯人2人の牛乳には、殺された娘の父親で、エイズによって亡くなった夫の血を混ぜてあります」と語る。得体の知れない恐怖に怯えるクラスメイトたちの中に、明らかに動揺する二人の生徒がいた。


…という、衝撃的なオープニングから始まる本作。

以降は、犯行に及んだ二人の生徒にそれぞれフォーカスし、オムニバス的な形式で彼らの「告白」が始まる。


少年『A』の告白。彼の母親は研究者で、研究に専念するため『A』を捨てて離婚しており、『A』は母からの愛が欲しかったために、研究と称して電子工作を始める。

少年『B』の告白。内気な彼は、不良に囲まれて交番に逃げ込むが、そこに迎えに来たのは担任の松たか子ではなく、隣のクラスの男性教員だったことを根に持っていた。実際のところ、それは学校のルールで「生徒と同性の教師が担当する」と決まっていたからだったのだが、それを知らなかった『B』は、松たか子に何らかの報復をしたいと思っていた。

『A』が発明した電子工作は賞をもらったが、そのニュース記事は、同日に発生した「女学生による猟奇殺人事件」の記事に追いやられてしまう。コレを悲観した『A』は、何か大きな事件を起こせば母に注目してもらえると考える。そして、自分が扱いやすそうな『B』に目をつける。

『A』からの誘いに対し、『B』は松たか子の娘をイタズラのターゲットにすることを提案する。『A』もそれに乗って、犯行に及んだ。『A』が作った「電気ショックを与えるサイフ」により、芦田愛菜は倒れる。『A』はそれを見て芦田愛菜が死んだと思い、『B』を置いて現場を後にする。

その際『A』は、「僕がやった、って言いふらしていいよ」と『B』に言う。全ては『A』自身が目立ちたいがために、自分は利用されていたんだ、と『B』は気付く。

『B』は、芦田愛菜はプールで溺死したように見せかけるため、彼女を抱きかかえる。すると彼女は目を覚ました。電気ショックの効果はお粗末なモノで、彼女は生きていたのだった。それを見た『B』は、「『A』には殺せなかったが、俺には殺せるんだ…」と謎の意志を持ち出し、彼女をプールに投げ落として溺死させる。

…これが事件の真相だった。

警察の調べでは事故死と片付けられたが、松たか子は現場近くで不審な遺留品を見付け、それまでの生徒たちの言動などから『A』と『B』が犯人だと特定する。そして冒頭の終業式のシーンへと繋がる。


「牛乳にエイズ患者の血を混ぜた」と言われた『B』は、それ以来病んで引きこもってしまう。松たか子の後任の岡田将生先生は頭の足りないウェイ系教師で、「みんなで『B』に寄せ書き書こうぜ!」などと提案する。『B』が犯人で、松たか子にエイズ血液を盛られたことは生徒全員が分かっていたが、匿名のメールによって口止めされていたために、生徒たちは岡田将生に真相を話せず、寄せ書きを書くことにする。

調子だけはいっちょ前な岡田将生が度々『B』の家を訪れることで、『B』とその母親は段々と病んでいき、ついに母親は『B』を殺すことを決意する。しかし逆に、『B』が母親を刺殺し、逮捕されてしまう。


『A』の方はしぶとく学校に来ていたが、次第にクラスメイトたちは彼をイジメるようになる。唯一イジメに加担しなかった学級委員の橋本愛は、『A』に好意を寄せるようになる。

橋本愛は、ある日ファミレスで松たか子を見つける。松たか子は岡田将生と頻繁に顔を合わせており、彼の相談に乗るフリをして、『B』を追い詰めるよう仕向けていたことを告白する。そして『A』についても許すつもりはないと告げる。

『A』が発明品を公開するサイトに、『A』の母親からと思われるコメントが付いた。喜んだ『A』は自身の発明品を携えて母親の研究室に行くが、そこに母はおらず、母は再婚していたことが分かった。自暴自棄になった『A』は、終業式の会場に爆弾をしかけて、自分もろとも生徒・教師を皆殺しにしようとする。

終業式当日、爆弾を起動するため携帯電話のボタンを押すが、爆弾が作動しない。慌てて確認すると、設置したはずの爆弾がなくなっている。

そこに松たか子から電話がかかってくる。「あんなウソの書き込み信じて母親に会いに行って、再婚されてたなんてツライねぇ〜」「あんたが作った爆弾は母親の研究室に置いてきたから、今頃作動してるんじゃないかしら」などと電話越しに責め立てる。

自分が母親を殺したと思った『A』は鼻血を噴き出しながら泣き喚く。そこに松たか子が現れ、「ここからあなたが更生する第一歩が始まります」と諭す。

…直後に彼女がつぶやく。「……なーんてね」

スーパースローが多用されていて、さながらミュージックビデオ、イメージビデオみたいな映像が続く。そこに松たか子の淡々とした語りが乗り、物凄い憎悪と覚悟が表現されている。

娘を失った悲しみから、地面に這いつくばって嗚咽を漏らす松たか子の演技は物凄い生々しさだった。

そして最後に冷酷な声で「なーんてね」と吐き捨てる終わり方は、「えっ、この後『A』をどうしたの…!?」と思わせる、コワキモチワルいラスト。

『A』が作った爆弾がどのくらいの威力かは不明だが、理科系の松たか子いわく「あんなお粗末な爆弾、すぐ解除できましたよ」とのこと。松たか子が実際に母親の研究室に爆弾を持ち込んだのかも不明だが、一生徒だった橋本愛が『A』に殺されても気にしていないようだったので、多分「ヤッた」のではないか、と思わせる。

…ただ、コレも、観客が「松たか子に『A』を殺してもらいたい」と思うか、「松たか子には最後の最後で一線を超えない良心を持っていて欲しい」と思うか、という観客の心理を試されているような気がする。

「『A』への復讐を遂げて欲しい」と思う心理に対しては、劇中で『A』をイジメていたクラスメイトたちにも通ずる残忍さを思い知らせてくるし、「松たか子には手を下してもらいたくない」と思う心理に対しては、「娘を殺された母親の気持ち、ホントに想像できてんの?」と言わんばかりの視線も感じる。

見ている人間の本性すらも炙り出される傑作だと思った。