Netflix オリジナルドキュメンタリー「FYRE 夢に終わった史上最高のパーティー」を観て、完全に今の現場じゃんと思ったり

Netflix オリジナルドキュメンタリー「FYRE 夢に終わった史上最高のパーティー」を観た。

2017年に開催された「Fyre Fesival」という音楽フェスは、美女たちが青い海ではしゃぐ PR 映像が SNS で話題になり、「最高の音楽・食事・アートが体験できるフェス」だとして注目された。しかし実際は、豪華な宿泊テントなどなく、避難用の簡易テントが流用され、ミュージシャンは一組も来ておらず、帰りの飛行機すら手配されていなかったという。この音楽フェスを企画したビリー・マクファーランドという男は、最終的に詐欺罪で逮捕されている。

このドキュメンタリーは、どうして Fyre Festival がこのような結末に至ったのか、その裏側を暴いている。当時の舞台裏のフッテージが利用されており、ビリーが語る大きなビジョンに対し、現実的な準備がいかに甘かったかが浮き彫りになっている。いや、彼の場合は恐らく、最初からちゃんとした音楽フェスを開催するつもりはなく、詐欺を意図していたのかもしれない。

いずれにしても、ビリーからの無茶振りをなんとか捌こうとしている現場のスタッフたちの証言を聞くに、あぁーこういう開発プロジェクトってよくあるよなぁっていうか今いる現場まさにコレだなー、とか思った。

そこで今回は、ドキュメンタリーのあらすじに沿って内容を紹介するとともに、この詐欺行為と共通する、炎上必至のダメな開発プロジェクトにありがちなポイントを紹介してみようと思う。

壮大なビジョン

2017年。当時25歳だった「起業家」のビリー・マクファーレンは、ラッパーのジャ・ルールとともに Fyre というアプリの共同創設者となる。その最初に企画されたのが「Fyre Festival」だった。彼らは「麻薬王パブロ・エスコバルが所有していた島を購入し、そこで音楽フェスを開催する」「海でレジャーを楽しんだり、豪華な食事や宿もついている」というビジョンを盛り上げていく。そして、一流モデルたちを起用したプロモーション映像を撮影。セレブやインフルエンサーに金を払って SNS を巧みに利用し、「何やら面白そうなフェスが計画されている」という情報だけを煽る。

さて、ココまでで読み取れる詐欺師の特徴は、こういうことだ。

一方、炎上する開発プロジェクトにありがちな特徴は、よく似ている。

「老朽化したオンプレのシステムを、クラウドにリプレイスする」だとか「イマドキの CI/CD の仕組みを導入し、運用コストを下げる」だとか「モノリシックなシステムを分割しマイクロサービス化することで開発効率を上げる」だとか。

耳障りがよく、「実現できたら素晴らしいことだな」と思えることが、企画書にはふんだんに盛り込まれている。しかし大抵は、

といったところが全く考えられていなかったり、浅い考えでしか記されていなかったりする。

こうした見通しの甘い計画は、「考えておくべきこと」が見過ごされていて、それが負債になり、後々のフェーズに致命傷を与えかねない。

トップの人間が「管理」していない

ビリーは企画を立ち上げ、とりあえず大々的な PR 映像に大金を使ったが、フェスを開催する島の準備に難航する。結局「パブロ・エスコバルの島」ではフェスを開催できず、近所の違う島を用意したが、そこはとてもフェスを開催できるような地形ではなかった。また、トイレの設営費用や食事、送迎、テントなど、音楽フェスを成立させるためには「華やかなステージ」以外の様々なことも検討する必要があった。

そうした諸問題に対し、ビリーは「僕は資金を調達してくるから、君たちが上手くやっといてくれ」と、スタッフたちに業務を丸投げしている。「管理がずさん」なんていうレベルではなく、何も管理できていないのだ。

コレは失敗するプロジェクトの一番の要因ではなかろうか。

平たくいえば「PM のキャパオーバー」で、そいつが任された仕事に対してそいつの能力が足りていないのだ。

ココで、PM の性格によって、いくつかの行動パターンに分かれる。

1 : 自分で何とかしようとして過労 → 部下に指示が降りてこない

真面目な性格の PM だと、自分で何とかしようとして残業を続ける。自分が管理・制御するために時間をかけて仕事を進めていくのだが、その間、部下には何の指示も降りてこないから、部下は待ちぼうけを食らう。

残業を続けているから次第に思考能力が低下し、正常な判断が下せなくなってくる。ようやく部下に出された指示は明らかに詰めが甘く、「それってこのパターンの場合に仕様が矛盾しませんか?」とか「そのタスク、別の人と思いっきり被ってて同時進行はできません」とかいう事態になる。

2 : 分かんないから部下に丸投げする → 進捗が芳しくなく怒り駆動開発へ

もう一つは、「とにかく頭を下げたくない」「強がっていたい」タイプの PM がやらかすヤツ。「仕事は若い奴が頑張れ」とでも思っているのか、自分が分からない仕事はまるっと部下に投げてしまう。

「仕事を任せる」というのは、その人に適切な権限を一緒に与えてこそ出来ることなのだが、こういうバカ PM は「仕事は任せたが、期限は死守。」とだけ言って去ってしまい、以後一切の協力・フォローをしないのだ。

仕事を押し付けられた部下の性格にもよるが、頑張っちゃうタイプの部下は過労死するまで食い潰すし、「そんな無茶振り、できっこないですよ」と反論してくる部下にはとにかく怒鳴りつけることで無理矢理従わせる。

進捗管理も何もしていないので、気まぐれに様子を聞きに来て、自分の想定と違う状況だと (大抵はそうなのだが) とりあえず怒り散らし、怒り駆動・恐怖駆動で開発を強いるのだ。


どっちのタイプも、やれる能力がないのにそんな PM 業を引き受けるから悪いのだ。

それでも、ビジョンありきで着手してしまい、具体的な目標や計画にブレイクダウンできない (しない) まま、ズルズルと進んでしまっているのだ。言わずもがな、コレでは負債がどんどん積み重なっていくことになる。

中止・リスケの判断を下せない

ビリーのずさんな管理はフェスの開催前日までそのままで、現場スタッフたちは疲弊していた。かなり手前の段階で「このフェスは失敗する・中止した方が良い」と進言した部下はクビにしてしまう有様。前日になっても会場の設営が完了していなかったという。

そしてついにフェス当日。避難用テントがテキトーに並べられた会場に通される客たち。いつまでもフェスが始まらないわ、突然の大雨でテント内はぐちゃぐちゃだわで、現場は暴動寸前。夜は電気が全くなく、混乱を極める。

結局 Fyre フェスは初日に「中止」が宣言されるが、帰りの飛行機のチケットは手配されておらず、帰ろうとしたフェス参加者たちは空港で待ちぼうけを食らうことになる。

極めつけは、汚らしいサンドイッチの写真が Twitter に投稿され、Fyre フェスティバルの実態が世界に明らかになったのだった。

最初に語ったビジョンが壮大なだけに、様々な外的要因によってスケジュール調整が困難になるのが、炎上するプロジェクトの特徴。

単純に考えて、壮大な計画、巨大なシステムには、多くの依存関係が存在する。いくら個々のシステムをマイクロに作ったからといって、「あるシステムが止まっていても大丈夫」なんてことはなかなかなくて、連携システムがスパゲッティのように絡み合い、どれもが欠かせない状態になる。

依存関係が多いと、開発チームとしてもお互いの開発チームの進捗に影響されたりするし、打合せばかり増えて開発に注力できなかったりするし、システム間の接続部分で必ずといっていいほど問題が起こる。

これは開発が順調に進む環境であっても起こりうることなのだが、先程のように PM が全然管理していない現場では、もっと混乱を極める。PM は何が問題なのかすら理解できないトンチンカンなのに、様々な決定権を持つため、このバカに理解してもらうための説明の時間が余計に取られる。そして基本的にはバカな PM が正しく理解できることはないので、判断を誤り、「じゃあこのタスクは1日でやれ」みたいな無茶を言ってくる。いくらその判断はおかしいと指摘したところで、おかしい理由が本当に理解出来ないし、自分を否定されたことで頭に来てしまうので、「いいからやれ!」と怒鳴りつけて立ち去ってしまったりする。

実際のところ、PM のバカどもも「ヤバさ」には気付いていて、スケジュールが絶望的に間に合わないことは薄々気が付いていたりするのだ。しかしそれでも、前述のとおりいまさらスケジュール変更なんてできないというところまで来ており、焦ってはいても何にもできないのだ。

自分にはどうすることもできなくなっているから、彼らは「怒る」のだ。「怒る」という行為は、対処法が分からないけど何とかしたい時に発する感情なので、怒っているというのは、その人が対処できるキャパを超えている証拠なのだ。

現場の人間は最後の最後まで「なんとかしたい」「せっかくやるなら成功させたい」と頑張るのだが、ある時「プツッ」と悟る。「あぁ、これ俺一人が頑張ってもどうにもならねえや」「俺が努力してもバカな PM が握り潰しちゃってて意味ねえわ」と。そうすると、もうどれだけ怒られても感情が「無」のまま、ダラダラと仕事をしたり、人によっては突然休職したりし始める。

本当は、PM が「いまさらスケジュール変更なんてできない」と思ったところで、それでもスケジュールを延期したり、「中止」の決断をしたりしないといけないのだが、彼らはゴメンナサイをするのが何よりも嫌なので、絶対に謝らない。最後まで「もしかしたら謝らなくて済むかも」という可能性の方に賭けてしまい、事態を修復不可能なところまで破滅させてしまうのだ。もしかしたら早い内にゴメンナサイしていた方が、結果的には品質の高い成果物になっていたかもしれないところを、無理矢理体裁だけ本番リリースに間に合わせた気になって、リリース当日に重大なバグを引き起こしたりするのだ。

それでも自分が悪いとは思っていない

明らかに詐欺同然の運営でフェス当日を迎え、大失敗に終わった Fyre フェス。それでもビリーやジャ・ルールは、その後の全社ミーティングで「コレは詐欺じゃない」「不運な失敗だった」などとのたまう。ビリーは逮捕されるが、その後釈放されてからも、本件に対する反省など微塵も見せず、次なる計画を語り始めたりしている。

ドキュメンタリーは、懲りずに夢を語れる、この薄気味悪い25歳の男を映して終わっていく。

現場を混乱させ、誰も保守できない酷いシステムを作り上げてしまっても、PM は平気な顔をしている。なぜなら、人が何人辞めようとも、どんなにバグを含んでいようとも、「当初約束したとおりのリリース日にリリースができた」からだ。彼らはコレを「成功」にカウントする。その後に本番障害が起ころうとも、この開発プロジェクトを「失敗」とは評価しないのだ。だってリリースの期日には間に合ってるから。形だけでも。

PM 連中は実質的に何の仕事もしていないから、リリース日にさえ間に合えば、自分たちはよくやったと思えるのだ。その上で発生した障害は部下が実装したことだから、自分が悪いという意識はないのだ。

だから、現場的には「あーもうどうすんだよコレ…」という絶望的な気分でも、奴らだけは「よーし打ち上げいくかー!」なんて呑気に言えたりするのだ。

Fyre Festival は炎上プロジェクトの縮図そのもの

Fyre という音楽フェスが失敗に至った経緯は、ニホンノエスイーがよく経験する、炎上プロジェクトの現場そのものだと思った。最初に風呂敷を広げすぎて、計画性がなく、知識も知恵も足りなくて統制が取れなくなり、自分のくだらないプライドが邪魔して物事を正しい方向に導けず、最後の最後まで誤魔化そうとして、大失敗したのを頑なに認めない。病んで辞めていったスタッフを見捨て、全ての元凶を作った本人だけがケロッと忘れて、また同じことを繰り返していく。ビリーは、まさに炎上プロジェクトの PM そのものだ。

自分も今そんな現場にいるので、Fyre をこのタイミングで見直して良かった (?) と思う。トップがクソだと全てクソ。現場が頑張るのは逆に良くないこと。むしろ大失敗させて、バカな PM にはお灸を据えてやらないといけないと思った。

こんなもん、自分を壊してまでやる仕事じゃねえや。無能な PM に殺されてたまるか。明日も仕事しねぇぞ。