映画「Whiplash セッション」を観た

この記事は2015年に某所に書いていたモノの転載です。


ツタヤで借りてシビれたので書いておく。2014年の映画。

マイルズ・テラー演じるニーマンは、バディ・リッチに憧れるジャズドラマー。J・K・シモンズ演じる指揮者のフレッチャーの目にとまりバンドに入れてもらったが、初日から椅子は投げるわ連続ビンタで罵声を浴びせるわの戸塚ヨットスクールスパルタ方式。

フレッチャー曰く「Good Job と褒めることで失われてしまう才能もある、生徒に真のジャズミュージシャンになってもらいたいが故、厳しくするのだ」とのことだが、さすがに理不尽なまでに追いつめること。

それでも指から血を流しながら猛特訓し、ドラムで応酬するニーマン。

彼がラスト9分19秒間に魅せる狂気の演奏は圧巻。

原題の Whiplash はハンク・レヴィ作曲の変拍子が激しいジャズナンバー。

何やら監督のデミアン・チャゼル自身がジャズドラマーを志してて、その時一番苦手としていた曲だとか。厳格な音楽教師も実際にいたようで、半ば監督の再現 VTR な様相を呈している模様。

マイルズ・テラーは2ヶ月間の猛特訓で、実際に指から血を流しながら演奏していたとか。つか2ヶ月であんなレベルにまでいけるのかよ…。編集でごまかされてるのか?顔だけ CG で取り替えてるのか?と思うほどの巧みなドラムさばき。

フレッチャーの体罰も辞さないスパルタ教育は、特にぼくみたいなゆとり世代は滅茶苦茶嫌うし、この映画のラストに感動はしたものの、こういう人間の存在は肯定する気にはサラサラならない、というところだが、この映画はそんな滅茶苦茶なスパルタ野郎をドラムでやり込める、主人公ニーマンの狂気じみた情熱に心打たれる。何クソ!っていう、心の底から湧きあがる色んな感情、憎さとか、怒りとか、そういうものを全部ドラムにぶつけている姿が最高にシビれる。

映画をとおして見ないと、このラストのカタルシスは感じにくいと思うので、見たことない人は全編見てからにしてほしい。既に見た人向けに圧巻のラストをもう一度。

「I cue you! (俺が合図する!)」

合わせてついてくるコントラバスの黒人さん GJ。

勝手に演奏を始めても、強引に周りを巻き込んでいけるのは、やはり時間軸を支配するドラムという打楽器の特異性によるものか。これが他の楽器だったらこういう映画にはなってなかっただろうなぁ。

フレッチャーも勝手な演奏に困惑しつつ、脅してもまるで動じることのないニーマンを見て、もう自分が支配できる相手ではなくなったと悟り、最高のパフォーマンスを引き出させるべく指揮に応じていく、その心の変容がJ・K・シモンズの繊細な演技で表現されている。

カメラアングル、カット、編集も素晴らしい。2時間フレッチャーに擬似的にイジメられてきた観客も、ニーマンがその情熱で打ち勝ってみせたラストシーンで、一気に感情が爆発する。

上述のとおり、根性論や精神論は大嫌いだけど、周りに何と言われようと、自分の全てをぶつけて表現できるものを掴んで、それにまっすぐ突き進んでいく強さを前にしたら、やっぱり感動する。そう強くなりたいとも思う。

何に感動しているのかしばらくよく分からないままだけど、たまーにこういうとんでもない映画に出くわすから、生きるのやめられない。