映画「Roman J. Israel, Esq. ローマンという名の男 信念の行方」を観た
2017年。
人権派の弁護士のデンゼル・ワシントンは、サヴァン症候群のために抜群の記憶力を持っており、高い能力があったものの、バカ真面目で融通が利かなかったので、普段は友人の法律事務所で裏方仕事をしていた。
ある日、その友人が植物状態になってしまい、法律事務所を解体することに。この友人の教え子だったコリン・ファレルが事務所の解体を手伝うが、そこで出会ったデンゼル・ワシントンの能力を見抜き、自分の法律事務所に引き抜く。
デンゼルは、コリン・ファレルとその事務所を「金目当ての心がない事務所だ」と決めつけ、独自に就活を行う。「公民権を守る国民会議」という団体を見つけ、そこに自分を売り込むが、ボランティア団体なので給料は出ないと断られる。仕方なくコリンの事務所で働き始める。
バカ真面目なデンゼルは、コリンにも自分の計画を話す。それは、司法取引を脅迫の材料として使う検察に対する、改革のための集団訴訟であった。しかしコリンは「いいから波風立てずに仕事してくれ」とだけ返答するのだった。
デンゼルの不運は続く。法律セミナーに訪れたら若者と意見が食い違ったり、勝手に始めた地方検事との交渉が失敗に終わり容疑者が殺されてしまったり、挙句の果てにはホームレスに襲われる始末。自分が守ろうとしてきた人たちに暴行され、ショックを受けるデンゼル。
窮地に立たされたデンゼルは手っ取り早く金を稼ぐため、殺された容疑者が証言していた仲間の居場所を密告、懸賞金の10万ドルを得た。当然守秘義務違反だが、金を手にしたデンゼルは高級スーツを買って観光を楽しむ。
休暇から戻ってみると、デンゼルの真面目な取り組みは同僚たちにも評価されていた。また、植物状態になっていた友人の訃報を聞き、より精力的に働くことを決意する。周りから評価されたこともあり、弁護費用として高額な請求を行うことも以前より罪悪感を抱かなくなった。
友人の葬式を終えたあと、コリン・ファレルはデンゼルに計画を打ち明ける。それは、事務所の方針を変えて、社会的弱者へのケアを手厚くしていこう、というものだった。以前デンゼルがした話に刺激を受けていたコリンは、司法取引の濫用に反対する集団訴訟もぜひ進めよう、と持ちかけるが、デンゼルはなかなか前向きになれなかった。
その後、デンゼルはある容疑者の弁護を任される。その容疑者は、デンゼルが懸賞金欲しさのために居場所を密告した、その本人だった。彼は「殺された容疑者が居場所を話していたのは、弁護士であるお前だけだったはずだ」「お前を必ず殺してやる」と脅す。恐怖のあまり逃げるように立ち去るデンゼル。
殺される不安に苛まれたデンゼルはやがて信念を思い出し、自分自身を訴えるという訴訟の準備を始めた。
異変に気付いたコリンがデンゼルを呼び止めると、デンゼルは守秘義務を破って懸賞金を得たことを自白。警察に自首しに行くと話す。毅然とした態度で立ち去るデンゼルの後ろ姿を見守っていると、不審な男が近付いているのをコリンが見かける。その後を追うと、デンゼルは銃殺されていたのだった。
デンゼルは死の直前、懸賞金を返却していた。そこには手紙が添えられており、「人は過ちを犯すもの。互いを許し合おう、それが自然の第一の掟である」と記されていた。
コリンはデンゼルの意志を引き継ぎ、司法取引の濫用に反対する集団訴訟のための準備を進め、アメリカ連邦裁判所に書類を提出しに行くのだった。
なんとも興味深い映画だった。
弱者救済のために信念を貫いていた男が、次第に現実に直面し、「多少の不正も、お金のためには仕方ないかな」なんて汚れていく。
一方、現実的な仕事の成果のために、当初は「有罪率」を競い、金儲けを重視していた人物が、純粋な信念を聞いて弱者救済に力を入れるようになってみたり。
デンゼルの演技もさることながら、良い感じに歳を重ねたコリン・ファレルの重厚な演技も素晴らしい。あまり好きな表現ではないが、「勇気をもらえる」ような、力強い信念を感じる映画だった。