映画「Anon アノン」を見た

2021-09-19。2018年の映画。

あらすじ

舞台は近未来。どういう仕組みかは描かれていないが、人の見聞きしたものは全て記録・検閲されるようになっている世界。警察は被害者や加害者が見聞きした映像記録にアクセスでき、個人間でも「記憶の記録」を転送できるような世界になっている。

ある日、刑事のクライヴ・オーウェンは、身元が確認できない女性とすれ違う。こうした身元不明者は最近増えていて、「ゴースト」と呼ばれているらしい。

続いてオーウェンは、殺人現場で被害者の生前最後の記録を見ようとするが、映像は加害者視点の映像に改ざんされていた。被害者視点の記録が存在しないため、加害者の容姿が分からないワケである。また、被害者が殺される直前の映像記録に関しても複数の改ざんが見られ、システムが何者かによってクラッキングされていることが分かってきた。

オーウェンはおとり捜査を始める。1ヶ月かけて「浮気をしてしまったビジネスマン」という記憶を作り上げ、匿名掲示板で記憶の改ざんを依頼した。そこに現れたのは、オーウェンが以前すれ違った身元不明の女、アマンダ・サイフリッドであった。

彼女はオーウェンの話を聞いて、ササッと「記憶の記録」を改ざんし、浮気した日は独りで過ごしたかのような記録に書き換わった。彼女は「特にやましい理由はないが、自分を監視されたくないから身元を消して生活している」と語り、去って行った。

アマンダと接触できたものの、彼女の詳細は掴めず、警察の上司はこの記録・検閲システムの技術者の男・サイラスをヘルプに呼び寄せる。彼が頑張ってアマンダの記録を追跡するが、どうにも追跡できなかった。

そこでオーウェンは、再び彼女に記憶の改ざんを依頼して面会する。そこでアマンダは「どうせ記録は改ざんするのだし」と語り、オーウェンと体を重ねる。

しかし、事が終わった時、彼女は突如として姿を消し、おとり捜査に協力していた同僚の刑事は殺されてしまった。オーウェンはアマンダから「ハメたわね、私をこれ以上追わないで」とメッセージをもらう。

帰宅したオーウェンは、アマンダの仕業か、自分がリアルタイムに見ている映像を改ざんされ、暴漢に襲われる映像や、事故で亡くなった息子の映像を繰り返し見させられる嫌がらせを受けるようになった。幻覚を振り払うため銃を発砲したところ、オーウェン宅の隣人が死んでしまった。オーウェンは「自分の記憶では射殺していない」と反論するが、記録映像ではオーウェンの銃によって隣人が射殺されたかのように記録されていた。自分はハメられていると語るオーウェンだったが、停職を明じられる。

やむなくオーウェンは監視付きで自宅に帰るが、オーウェンは寝たフリをして、目をつぶったまま移動し、記録を見られないようにしながら自宅を出る。そしてアマンダの隠れ家に向かってアマンダと会うが、彼女は「別の誰かが同僚の刑事を殺した、私もハメられていて監視されているだろう」と語り、姿を消す。

オーウェンを追ってきた警察上司に対し、オーウェンは「彼女以外に真犯人がいる」と説得するが、聞き入れてもらえず、自宅に戻されてしまう。

自宅に戻ったオーウェンに再びアマンダから連絡が入り、「監視している警官を追い払うので面会しよう」と連絡が入る。オーウェンが自宅で待機していると、突如視点が切り替わる。真犯人が自分を殺しに来たのだ。

そこに間一髪で駆け付けたアマンダ。アマンダと取っ組み合いになった真犯人は、システムの技術者、サイラスであった。彼は見事に身元を隠し記録を改ざんするアマンダを崇拝するストーカーだった。視界を奪われているオーウェンは「刑事の勘」で銃を構え、対象を見ることなくサイラスを射殺する。

後日、技術者のサイラスに関する情報を検索するが、警察内部の記録も改ざんされていたことが発覚。彼もまた、身元不明の「ゴースト」であった。

それからしばらくして、アマンダはオーウェンと面会し、自分はこれからも匿名の存在として生きていくと語る。彼女の記録は、世界中の人間の記憶の隙間に断片化して存在しており、それらを結合するアルゴリズムが見つからなければ、彼女のようなゴーストは身元を隠し続けられるという。「なぜそこまで自分を隠そうとするのだ」とオーウェンが問うと、アマンダは「秘密はない。見せたいものがないだけ」と答え、姿を消すのだった。

感想

クライヴ・オーウェンが神妙な顔をしていれば、SF の世界を違和感なく受け入れられるという、「トゥモロー・ワールド」で確立された役得をふんだんに利用している。w

人の記憶が簡単に検索できる設定や、人がリアルタイムに目視している世界にパーソナライズドされた広告が混じっていたりする映像演出はとても面白い。オマケに「過去の映像記録」だけでなく、「今まさに見ているビジョンそのもの」を改ざん出来る設定も面白くて、「幻覚を見させられている」というのが不思議な感覚だった。監督のアンドリュー・ニコルは「ガタカ」や「タイム」の監督で、こうした SF 世界の描き方は抜群だ。

アマンダ・サイフリッドも脱ぐし、エチーなシーンも多いのはイマドキ珍しいなと思った。喫煙シーンも多いし、80年代の刑事モノを彷彿とさせるような描写や映像はホントに楽しめた。

人々の生活全てが記録・検閲されるシステムであり、反発があるのも納得だが、映画の中では「便利で面白そう」という感覚が強くて、「ゴースト」と呼ばれる人々がこうしたシステムに反発する理由付けが乏しい気がした。

アマンダ・サイフリッド演じる「アノン」も、闇に葬りたい過去があるワケではなく、ただ何となく見られたくないというフワッとした理由でしかなく、なんだか人物設定が微妙。さらに、真犯人の「サイラス」もまた「ゴースト」であり、「アマンダ・サイフリッドのストーカー」という以上の行動原理がなくて微妙だった。もう少し反体制的な主張があるとか、闇組織が繋がっているとか、そういうストーリーの方がこの世界観を活用できたように思う。

舞台設定は面白かったが、サスペンスとしてはもう少し練った方がより良い作品になりそうだと思った。あとアマンダ・サイフリッドとエマ・ストーン似てるね。w