映画「Reminiscence レミニセンス」を観た

2021-09-21。2021年の映画。監督はリサ・ジョイ。彼女の旦那のジョナサン・ノーランが脚本で携わっていて、彼の兄はクリストファー・ノーラン。ジョナサン・ノーランはクリストファー・ノーラン監督作品の脚本にも多く携わっていて、本作も広い意味では「ノーラン作品」にあたる。

現在上映中の最新作だが、ガッツリ感想書いていくので閲覧にはご注意を。

目次

あらすじ

舞台は近未来のマイアミ。大きな戦争を経て海面上昇が進み、世界は水没しつつある。退役軍人のヒュー・ジャックマンは、そんな水浸しの世界で人々の記憶を再生する装置を扱う専門家として生計を立てている。人々は未来に絶望し、過去の楽しかった記憶に取り憑かれているので、ヒュー・ジャックマンのような職業は重宝されていた。その装置は人の記憶をリアルに再生するが、ヒューのような専門家が適切に「ガイド」してやらないと、脳に損傷を及ぼす危険性があるのである。

例えばアンジェラ・サラフィアンという女性はヒューの店の常連客で、いつも「不倫相手の男との思い出」を再生していた。また、軍役時代の友人は両足を失って薬物中毒になっており、戦前の記憶を繰り返し再生しているのだった。

この世界では、ブレット・カレンという男が戦争のタイミングで土地を買い集め、大富豪の地主となっていた。彼は地上げに際して数々の悪事を働いており、検察はヒューが扱う「人の記憶を再生する装置」にかけて証拠を固めたいとしていたが、彼は持病を理由に装置の取り付けを拒否していた。


ある日、ヒューの店に、「鍵をなくしたので記憶を再生して探してほしい」と依頼する、一人の女性がやってきた。彼女は場末のバーで歌手として働くレベッカ・ファーガソンで、ヒューは彼女に一目惚れした。

ヒューは彼女の忘れ物を届ける口実で彼女の自宅に上がり、一気に仲を深めていった。ヒューとレベッカは付き合い始め、幸せな日々を過ごしていた。

という記憶を、ヒューは何度も繰り返し再生していた。

ヒューの助手、タンディ・ニュートンは「去って行った女性の思い出にすがるのは止めて前に進むべきだ」と助言するが、ヒューは聞かず「彼女が理由も言わず去るはずがない、何かあったはずだ」と信じていた。


次の日、ヒューは検察に協力するため、あるチンピラの記憶を辿る。彼の5年以上前の記憶には、

の姿が映し出された。ヒューは捜査協力を忘れ、チンピラにレベッカの記憶ばかり尋ねる。

彼女は、ダニエルから麻薬を盗んで姿を消していた。彼女は麻薬中毒者だったのか…?とショックを受けるヒュー。

ヒューは捜査そっちのけでニューオーリンズに向かい、ダニエル・ウーの元を訪ねた。ダニエルは突然やってきたヒューに銃を向けるが、タンディ・ニュートンが駆け付けて助けに入る。彼女も戦時中は射撃の名手として活躍した元軍人であった。


レベッカがヒューの元を去る前、最後に姿を観たのはタンディだった。タンディは自分の記憶をヒューに見せた。タンディには疎遠となった娘がおり、レベッカとその話をしたことを隠したかった思いもあり、ヒューには詳細を話さずにいたのだった。

そこでヒューは、レベッカが店にある「客の記憶を記録したディスク」を盗んだことを見つける。彼女は何らかの理由で、顧客の記憶を盗む必要があったのだ。盗まれたディスクは、冒頭に登場した常連客の女性、アンジェラ・サラフィアンのモノであった。

ヒューはアンジェラの居住区に向かうと、そこでアンジェラが殺されたこと、彼女の子供が女性に連れ去られたことを知る。さらに悪徳警官のクリフ・カーティスに襲われ、「過去を追うのは止めろ」と忠告を受ける。

ヒューが地元に戻ると、大地主のブレット・カレンは病死していた。財産は残った妻と息子が相続するそうで、土地を追い出された市民の反発が強まっていた。ヒューは地主の妻、マリーナ・デ・タビラの姿を見て、あることを思い出す。

ヒューは「アンジェラの記憶を再生する仕事中の自分」の記憶を再生することで、盗まれたアンジェラのディスク相当の記録を確認した。アンジェラの不倫相手は、大地主のブレット・カレンであった。


ヒューは大地主の家に向かい、妻のマリーナから話を聞く。彼女は過去にすがって気がおかしくなっていたが、断片的に語ったのは「財産分与を嫌がった」「ジャンキーが行く場所は決まっている」などという情報だった。わずかな情報だが、ヒューは検討が付いた。

再び出掛けようとするヒューに対し、助手のタンディは「過去に囚われないで前に進もう」「もう助けには行かない」と忠告する。それでもヒューは忠告を聞き入れず、タンディと別れて単身出掛けるのだった。

麻薬中毒者が集う廃墟に向かうと、そこには悪徳警官のクリフがいた。ヒューはクリフと死闘を繰り広げ、気を失いかけた時にレベッカの幻影を見る。

気を取り戻したヒューはクリフをぶっ倒し、自分の店に連れ帰って彼を装置に繋ぐと、レベッカとの記憶を呼び起こさせた。


ダニエル・ウーから麻薬を盗んだレベッカは、その後更生して麻薬中毒を克服していた。クリフもダニエルの元を離れており、新たなボスの元で仕事を始めたようだった。

クリフはレベッカの居場所を突き止め、ダニエルにバラされたくなければヒューに近付いてアンジェラの記憶ディスクを盗み出せ、と持ちかけていた。ヒューがレベッカと仲良くなったのは、クリフの罠だった。

レベッカはクリフの指示でアンジェラの記憶ディスクを盗み出すも、ヒューへの思いが本物に変わっており、クリフの計画に反対し始めた。クリフがアンジェラの息子を殺そうとしていることが分かると、レベッカはアンジェラの息子をどこかにかくまった。

クリフはレベッカを追跡し、アンジェラの息子の居場所を聞き出そうとする。しかしレベッカは、「あの少年は、私が立ち直ったあの場所にいるわ、あなたなら分かるでしょ」と、ヒューに対して告白を始めるのだった。

レベッカの告白を、記憶再生装置越しに閲覧するヒュー。感極まったヒューは装置の中に入り込んでレベッカのホログラム映像に近付き、唇を寄せ合った。

何のことだか分からない様子のクリフに対し、レベッカはその場で麻薬を大量摂取し、オーバードーズで自殺する。その記憶を見て泣き崩れるヒュー。

しばらくしてヒューは怒りを顕にし、装置に繋がれたクリフに対して次のように語った。「お前を殺しはしない。死ぬよりも苦しい目に遭わせてやる。その顔の傷はどうした?なるほど、ダニエル・ウーの仲間に火傷を負わされたのだな?お前は今、その時の記憶を思い出している。火だるまになって熱いか?ずっとその苦しみを思い出し続けろ」と…。ヒューはクリフの苦しい記憶を繰り替えし呼び起こし、彼の脳を破壊した。

そしてヒューは大地主の家に再び赴く。亡くなった地主の息子に対し、「お前は父親のブレット・カレンがアンジェラと不倫していて、その息子にも財産分与されることを危惧して、アンジェラの息子を始末するためにクリフを雇ったのだろう」と問い詰めた。ヒューはレベッカから聞いていた生い立ち話から、アンジェラの息子がかくまわれている場所が分かっていた。ヒューからの通報により、アンジェラの息子は警察に保護されていた。全てを観念した地主の息子は泣き崩れる。


ヒューはタンディに合流し、事のいきさつを全て打ち明けた。そして、「君も娘さんを探し出してやるんだ」と語る。

クリフの脳を破壊したことで、ヒューは処罰の対象となったが、検察と取引をして罪を軽くしてもらう。そして再び、記憶再生装置を自ら起動させると、レベッカとの思い出を再生した。


そこに現れたのは、年老いた助手のタンディ。レベッカとの記憶を繰り返し見続けているヒューも年老いていた。

タンディは娘と生活を再会しており、「私は未来に向かって進んだが、彼は過去を振り返ることを選んだ、どちらも間違いではないのだろう」と語るのだった。

記憶の中のヒューは、「ハッピーエンドの物語を聞かせて」というレベッカの要望に対し、「ギリシア神話のオルフェウスの話」をする。オルフェウスは死んだ妻と再会すべく地獄に向かい、妻と再会して「幸せに暮らしましたとさ」と、物語を途中で終わらせて語り、レベッカとキスをするのだった。

感想

たてはまさんのレビューを見て見に行きたくなり、見てきた。

「インセプション」と「メメント」を足して割った上に水を加えてアッサリさせたものに「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」と「グレイテスト・ショーマン」を砕いて振りかけたような映画

もうコレが言い得て妙で、過不足ない感じ。w

本作は「クリストファー・ノーラン作品」ではないので、深読み考察や科学的整合性とかを気にする映画ではない。とにかくヒュー・ジャックマンがレベッカ・ファーガソンに一目惚れ・ゾッコンラブして追っかけている、というところだけである。

映画は主人公視点で追体験するので、初見は謎が明らかになっていく様が面白いのだが、いささか人物関係が複雑なので、誰の思惑でどうなっているのかが追跡しづらいかも。

  1. まず、大地主の男が浮気して、その女との間に子供ができた
  2. その愛人はヒュー・ジャックマンの店の常連で、彼女の記憶ディスクがヒューの店に保管されていた
  3. 大地主は死に際で息子に頼んで、愛人とその子供を探してもらおうとした
  4. 大地主の息子は、愛人の子供が遺産相続するのを嫌がり、愛人の子供を殺すため、悪徳警官を雇った
  5. 悪徳警官は、ニューオーリンズで面識のあったレベッカ・ファーガソンを強引に引き入れ、ヒューに近寄らせた
  6. レベッカはヒューと仲良くなり、ヒューの店から愛人のディスクを盗んだが、良心が咎めて愛人の子供を保護したうえで自殺した
  7. ヒューはレベッカの影を追いかけ、悪徳警官の記憶からこれらの経緯の全貌を知った

…この流れを整理するのが、初見だけだと結構大変だった。

「記憶を見られる装置」というのは、ホントにただの再生装置で、ヒュー・ジャックマンが他人の記憶に潜入して新たな行動を起こしたりとか、タイムトラベルモノのように出来事を改変したりするようなモノではない。他の映画でいえば「マイノリティ・リポート」が近いのではなかろうか。あの映画は「未来の特定のタイミングが映像として見える」だけで、その時空にタイムトラベルするワケではない。「ミッション 8 ミニッツ」は記憶に潜入するがその中で主人公が自由行動できて最後に (パラレルワールドに) タイムトラベルも実現してしまうので、ちょっと世界を操作し過ぎ。「デジャヴ」も基本は「映像が見えるだけ」だったが、最終的にはタイムトラベルしてしまったので、装置が時空に関与し過ぎでちょっと違う。

ホントに過去の記憶のビデオが見えるだけなので、非現実的なアクションシーンもなく、現実と非現実の区別がつかないような混乱させるシーンも少ない。そういう意味では、SF 的な舞台や設定は単なるギミックで、メインはヒッチコックの「めまい」みたいな感じの「人探し映画」として捉えると良いだろう。


「悪い記憶にはずっと苦しめられるけど、良い記憶に囚われ続けても現実との差で絶望する」

「過去は一瞬いっしゅんの連続であり、それ単体では完璧である」「ハッピーエンドな物語などない。途中を切り取ればハッピーエンドに見えるだけ」

記憶や思い出に対する色々な言葉が出てくるけど、とても分かる。

ヒュー・ジャックマン演じる主人公は、自分の思い出の中でレベッカ・ファーガソンを生かし続けることを選んだワケだ。

ラストで語る「オルフェウスの神話」も、「冥界を出るまで振り返ってはならない」という忠告を破ってしまい、妻と永遠に別れてしまうという結末ではあるのだが、「妻と再会できた」ところまでで語りを止めているので、ハッピーエンドに見えるということで、ヒュー・ジャックマンの選択とも重なるところだ。

助手のタンディ・ニュートンは、ヒューを間近で見てきて、大切な友人、もしかしたらそれ以上の想いを抱いていたかもしれないが、ヒューは結局レベッカとの思い出に囚われてしまった。そんな中でも彼女は、娘と再会して未来を見据える選択をしたワケである。

どちらの生き方も、それぞれ本人の目線では幸せに見えるし、傍から見ると不幸にも見えるかもしれない。そんな対照的な二人が描かれている。


ヒュー・ジャックマンが怒ってクリフ・カーティスを「バーン」させるシーンは、本当に恐怖を感じるほどだった。ヒューの演技力でかなりこの作品が持っているところがある。

そういえば、タンディの娘 (ナタリー・マルティネス) は、レベッカを探すシーンでヒューがニアミスしている。


ヒュー・ジャックマンとレベッカ・ファーガソンのコンビは「グレイテスト・ショーマン」以来。ヒュー・ジャックマンとジョナサン・ノーランは「プレステージ」で関わりがある。

タンディ・ニュートンって「MI2」「クラッシュ」なんかに出てたね。ちょっとポーラ・パットンと間違えて覚えてる。MI シリーズ出演者が多いなw

ダニエル・ウー演じる麻薬商が、5年前の記憶映像と現在とで、脂ギッシュさが増していて、自身も麻薬中毒者っぽい感じが出ててよかった。w

クリフ・カーティスは直近だと「ワイルド・スピード スーパーコンボ」に出てたかな。

SF 的な世界観も程良く、ストーリーは複雑ながら難解過ぎず、記憶再生装置を利用したクライマックスシーンの演出も素晴らしかった。記憶の捉え方・価値観に関するメッセージも素敵だった。

が、なんだろう、この「今ひとつ足りない感」は…。

別に「SF アクション」を期待して見に行ったワケではないし、「タイムトラベル」モノだと思って肩透かしを食らったとかいうワケでもない。コレといって悪いところも特に出てこない。が、何か足りてない感じがするのである…。

まぁ、謎が明らかになってしまった以上、「2回・3回と繰り返し見なくても良いかな…」と思ってしまったのが、「この映画を消費し終えた」感があって微妙に感じるのかもしれない。何度も見たいと思わせるほどではない、というか…。

舞台設定を伝えるための語りが多く、初見での意外性を狙ってテンポ速めで展開が進むのに、ピアノとともに水中に沈むシーンとかの緩急の付け方や意味があんまりない感じとか、主人公の心象風景にまで割り切れてない回想シーンとかが、何かこう、違和感が残るのかもしれない。そもそもの主人公が女性を追いかける理由付けも弱い気がして、「ヒュー・ジャックマンほどのイケメンが、いくらレベッカ・ファーガソンの美貌があるとはいえ、場末のヤク中女を追い続けなくてもよかろう」みたいな気持ちになってしまう。w


初見2時間のひとときは、謎が謎を呼び、ハラハラムズムズしながら楽しめる映画だと思う。一見の価値はある。