自分が避けてきたバッドノウハウをあえて使う
コレは上手く行かない手法だな、とか、こういう表現は伝わりにくいから止めた方が良いな、とかいう、いわゆる「バッドノウハウ」「バッドプラクティス」を、あえて使うようになった。
仕事をするにあたって、理想論としては「組織の透明性を追求して…」とか「誰にでも伝わるドキュメントを…」とかいう思いは最初あったのだが、実際に透明性を重視して何でも報告してみると、お局さんが要らぬ文句を付けてきたりする。色々な検討事項を踏まえて全てキチンとドキュメント化してみると、本質と違うところにツッコミが入ってしまい、それが元で余計なタスクが増えてしまったりする。
専門家でもない部外者が、ちょこっと聞きかじった情報を元に「それってこうなんじゃないですか?」とか「こういうことは試したんですか?」とか言ってくるけど、専門家である担当者は、そんな素人の思いつき程度のことは全部調査・検証済みなのよね。一定のリテラシーがある相手にならそこは全部書かずとも伝わるモノなんだけど、素人の部外者に伝えようとすると、ホントに辞書的な意味や経緯から全て説明しないといけなくなって、その説明コストがバカ高くなってしまう。
別にあんたが分かってなくたっていいんだよ、とか、話の本筋が分かってねえなこのバカはよぉ、とこっちは思ってるんだけど、「私がよく知らないモノが勝手に進んでるのは嫌だ!」みたいなお局さんや「説明責任があるだろ」とかのたまう無知無知おじさんがイチャモンつけてきて、結局その説明コストを費やさないといけなくなる。
バカ正直に、バカ真面目にやるとめんどくさい無意味な仕事が増えてしまうので、メンバは次第に透明性を犠牲にし始め、分かりにくい言葉を多用するようになる。あえて説明不足なドキュメントにするが、一方で全体の分量は上手いこと膨らませてあって、素人の部外者が「詳しいことは分からないけど、とても難しいことを沢山考慮しているのだろうな、ヨシ!」と思うように仕向け、ツッコミが入らないようにする。
チケット名も中身や完了条件がパッと見で分かりにくいような、体言止めや、「~について」みたいなタスクにしておいて、レビューや承認のフローを巧妙に誤魔化し、本質外の余計な指摘を入れさせないようにする。そうでもしないと、やるべきタスクが進まず、案件が完全に破綻してしまうからだ。
もはや当初理想に掲げていた現場は存在しなくなった。担当者同士はお局や口出しオジサンに見つからないように秘密裏にやり取りしているし、お局さんと話をしないといけなくなった時は、分かりにくい言葉を使ったり、含みを持たせた表現をしたりして巧妙にやり込める。「はい」とも「いいえ」とも答えていないが、相手の機嫌を損ねず、何となくその場は分かったかのように思わせて実は何も進展がない打合せをやり過ごす。
いくら多人数が理想論を良いと思っていても、そのやり方に沿えない人間が一人でもいると、場は壊されて理想どおりには行かない。残念ながらこういう害悪な人間は、何故か外そうにも外せないポジションにいることが多く、結局この人の顔色を伺って仕事をするしかなくなる、独裁政治な現場が多いものだ。
ホントはこんな形の仕事したくはないんだけどなぁ…。だって誰が見ても分かりにくい資料しか残ってないし、こんなしがらみだらけのイビツなシステム、誰も保守できないじゃん…。
そうは思ってるんだけど、こういう地の底まで落ちきったしょーもない現場では、一般的に良しとはされていない手法を活用した方がまだマシだったりするのだ。
普段自分が避けている手法なので、それをあえて繰り出すのが難しいのだが、それも大人の仕事なんだろうなーと思うようになった。ただただバカでモノを知らないから分かりづらい言葉を使っているワケではなくて、そうした方が何とかなる現場だから、生存戦略としてバカっぽい言葉を使っている場合もあるのだ、と気付いた。
そんな中でも、マジでモノを知らないバカと、それっぽい言葉を使って知ったかぶってるだけのヤツと、ホントはちゃんと分かってるまともな人とは、ちゃんと区別が付く。抽象化の仕方や例え方が「ありがちな間違い」になってるのは無知なだけだし、全く本質を掴めていない例えを持ち出す奴は勘違いしてる知ったかぶり。ホントは正確に理解しているけど、現場のレベルに合わせて曖昧な言葉をあえて狙って使っている人は、より正確なワードを知っていてもそれを使わず、それでいて代用するキーワードは、ベン図を描いてみた時にズレがないワードを巧妙にチョイスしている。
マジのバカ・知ったかぶり君と、しがらみに応じてバカを演じている人とは、皆ちゃんと区別が付いているので、仕方なくそういうくだらない仕事をしていても、見る人はちゃんと見ていて、そういう人には先があるのかな、と思った。
本音と建前。本音をストレートにぶつけるだけじゃ世界は変わらない。そういうどうしようもない世界は、建前をテキトーに繰り出してやり過ごしておき、自分が本当に安心して楽しめる世界に移動して暮らせばいい。まともじゃない場所・人は、一生改善なんかしやしないのだ。