積極的に報告しない部下の心理
別の職種の人と話をしていて、こんな話題になった。
- 職場の同僚のご家族が『流行風邪』の陽性になって入院したと電話が入った
- 同居人である同僚氏も感染の恐れがあるため、すぐに検査が必要と言われ、緊急で会社を早退することになった
- 上司はその同僚に「君の検査結果によっては、職場に感染が広まっている恐れもあるので、ご家族の病状や君自身の検査の状況など、逐一連絡してくれ」と伝えたそうだ
- そうして早退した同僚氏だったが、何時間経っても一切の連絡がなく、結局その日は一通も上司への報告がなかった
- 上司は当然「どうして彼は何も連絡してこないんだ」と怒っていたそうだ
しかし、この話をしていた人はその様子をそばで見ていて、次のように思ったという。
- 病院内ではメールや電話が出来ないのかもしれない
- このご時世、家族といえど病院に着いてもすぐに面会したり会話をしたりするのは難しいのかもしれない
- 検査結果というのはその場で出るワケでもないだろう
- だから、急ぎ連絡する内容がないのではないか
- 職場環境的に、上司に直通の電話番号がない、上司は携帯電話を持ち歩いたりしていないので、連絡を入れても上司がそれをすぐに見るとは限らないから、急ぐ必要もないのではないか
…という考えから、「何も連絡してこないとかいって怒らなくてもいいじゃん」と思ったそうだ。
自分としては、そんな考え方をする人もいるのか、と衝撃の事案だった。
もし僕がその同僚の立場だったら、次のように行動するだろう。
- 上司に「逐一連絡してくれ」と言われた段階で、「連絡手段は何が良いですか?」と確認する
- 電話なのかメールなのか、その連絡先を聞いておく
- 連絡が取れなくなりそうな環境に入る直前には、一報入れる
- 例えば病院に入る前に、「いま病院に着きました。コレから検査をするので、検査が終わり次第また連絡します」と送る
- この時、「次に自分はどのタイミングでまた一報を入れるつもりか」を伝えておく (「検査が終わり次第」など)
- 進展がなくても定期的に一報入れる
- 家族の状況が中々分からないのであれば、「順番待ちで、あと1時間くらい待たされるようです。診察の番が回ってきたらまた連絡します」と送る
- 自分の検査をしたけど結果は後日分かる、というのであれば、「ただいま検査が終わりました。検査結果は明日分かるそうです。結果を聞いたらまた連絡します」と送る
- 上司から返信がなくても報告を続ける
- 返信がないからといって報告を止める、という選択肢は取らない
- 相手側に留守電が数件溜まろうと、未読のメールを連続で送ろうとも、自分からの報告は必ず送る。緊急事態なのだから
- 上司の返信がどうしても欲しい場合は、複数の連絡手段で連絡を試みる
- 例えば自分の検査結果が陽性だった、というようなマズい状況だったら、すぐさま上司や職場に知らせる必要があることは想像に難くないだろう
- 「電話で定期報告」という約束で、電話が留守電になってしまうようなら、上司のメールアドレスにメールを送り、さらに職場の別のデスク宛に電話して伝言をお願いしたりする
- 上司がどういう状況であろうと、1秒でも早く上司の耳に情報が伝わるように、複数の手段で情報を発信する
要するに、上司が「もう連絡しなくていいよ」と言うまでは、コチラから主体的に報告をし続けるのが普通だろう、というのが、僕の考え方である。
コレは「逐一情報を知りたいと言っていた上司のため」とか「自分が会社に与えてしまう損失や影響を心配して」とかいう思いやりの精神でもなんでもなくて、自衛のための策でしかない。もっと単純な話だ。
- 上司は自分に「逐一報告してくれ」と指示を出した
- 自分が怒られないようにするには、自分の非を作らないようにするには、「逐一報告する」を守ることが重要だ
- だから、上司からの返信がなくても報告は送り続けるし、進展がなくても「進展がありません」という報告を上司に入れておくことで、「私は逐一報告しましたよ」とアピールする
- もし上司が何らかの理由で報告を見逃していたとしても、「私は言われたとおりに報告をしましたよ」「複数の連絡手段で通知して、コチラ側は最善を尽くしましたよ」という証拠作りをしておく
- 嫌な言い方をすれば、「自分はサボっていませんよ、指示どおり報告をしたのだから自分に責任はない、悪いのは報告を聞かなかった上司だ」と責任転嫁できるようにする
というワケだ。
実際、その職場の上司さんは「どうして彼は何も連絡してこないんだ?」と疑問を抱いていたのだから、件の同僚氏は進展があろうがなかろうが、一通でも上司に連絡を入れるべきだったのだ。
もう一ついうと、「進展がないなら、何も報告しなくてもいいか」という自己判断は、上司と「逐一報告してくれ」「分かりました」というやり取りをした後に、自分一人で勝手に判断した後出しの判断だ。その判断に上司は合意していないのだから、あなたの「連絡をしないことにする」という選択は、上司の意に反している可能性がある。コレがいわゆる、「勝手なことをするな」と怒られるポイントになる。
だったら、「ハイ、分かりました」と答えるのではなく、「『逐一報告』というのは、進展がなくても1・2時間おきに連絡した方が良いですか?それとも検査結果が全て分かってからの報告だけで良いですか?」というように、報告の粒度や頻度を事前に確認すればいいのだ。こういう上司との認識のすり合わせ、確認作業が、「少しは自分で考えて働いて」と望まれるポイントになる。
営業系の仕事の人なら、「僕はやってますよ」アピール、点数稼ぎのためにこういう「積極的な報告」ムーブを取ることだろう。
また、僕のようなシステムエンジニアの場合、成果物に実体がなく成果が見えにくいモノだから、「僕はこういうことをこれだけやりましたよ」という報告が、納品物の品質、自分の評価の全てになるので、やはり「積極的な報告」が重要になってくる。事務系の仕事でも同じようなモノだと思う。
しかし、もしかすると接客業とかだと、こういう「自分はちゃんとやりましたからね!!文句ないでしょ!?」的なムーブが必要な場面が少なくて、こういう緊急事態にどれだけ積極的な報告をするのが望ましいのか、感覚が違ったりするのかもしれない。
確かに、逐一上司に連絡を入れるため、時間を割いて文面を考えてメールして、というのは、労力はかかる。面倒臭いのは分かる。だが、上司から見て「やっていないように見える」ようなムーブよりは、「やっているように見える」「やる気が見られる」ムーブを見せておく方が、自分の評価も下がらないし、結果的に上司や職場全体のためになることだろう。
実際のところ、部下から報告をもらって「そんなことイチイチ報告しなくていいよ」と言ってくる上司はそうそういないと思う。
なぜなら、部下は上司一人しか見ていないが、上司は複数の部下を見ている、という視点の違いがあるからだ。
当たり前のことだが、部下にとっては、「直属の上司」というのは、一人、二人程度だ。だから、上司の動向を比較的細かく追跡できる。「あのクソ上司が、またタバコ休憩してサボってやがる」とか、「全然自分たち部下の面倒を見ていない」「あの社員だけ優遇しているように見える」というような不満は、その人ひとりを集中してウォッチできる部下の立場だから余計に目につく。
しかし、上司の立場になると、複数の部下の状況を見ながら、自分の仕事もこなさないといけない。上司といえど人間、能力には限界があるから、「一人の部下が一人の上司をウォッチしている時」のような細かな粒度では、複数の部下をウォッチすることはできない。だからどうしても「手短に結論だけ報告してくれ」と部下に言ってしまったり、一人ひとりの部下のケアが行き渡らなかったりしがちなのである。
そしてココで重要なのは、そういう上司の立場からすると、「積極的に報告してくれる部下」には時間を割き、「無口な部下」はないがしろになってしまいがちな点である。
保育園や幼稚園の先生を想像してみてほしい。20人、30人の子供が教室にいて、先生はあなた一人。
取っ組み合いの喧嘩をしている2人の子供を発見したら仲裁し、擦り傷を作ってギャン泣きしている1人の子供をあやして手当てをする。そんな中で、残り数十人の子供達に対しても本当に平等に目を配れるだろうか?
自分に背を向けて座っている別の子供は、一見大人しくしているように見えたが、実はオモチャを誤飲して静かにもがいているかもしれない。でも、「先生~コレ見て~!」とアピールしてくる別の子供についかかりっきりになってしまい、「無口な子供」へのケアが不足してしまう事態は、ありえることだろう。
子を持つ親としては「保育士さんよぉウチの子もちゃんと見ててくれよぉ」と思う気持ちも湧くが、先生も千手観音ではないので、一度にできることは限られる。そうなると一番緊急性の高そうな、目についた子供を優先してしまう瞬間というのはまぁまぁありえることだろう。
嫌な例えを出して申し訳ないが、コレと同じで、部下の立場での「報告をしないことにする」という選択は、自ら上司との距離を離し、得られたかもしれない援助を断っているのに等しいことなのだ。
「報・連・相」なんて耳タコの使い古された言葉だが、コレは部下を守るための策なのだ。どうにもならない酷いことになる前に、上司にちょくちょく報告を入れておくというのが、部下としての仕事なのだ。
だから、上司から「あれはどうなった?状況を教えてくれ」と指摘されて初めて報告しているようでは、遅すぎるのだ。上司は痺れを切らして聞きに来たワケで、「ココまで何も報告してこなかったのに『進捗遅れてます』なんか絶対言うんじゃねえぞ?」と思っているはずだ。部下がふんぞり返って「知りたいなら上司から聞きに来れば良いんだよ」と考えているのは間違いなのだ。間違えて欲しくないので何度も書くが、コレは「上司のため」とか「会社のため」というより、まずは「部下であるあなた自身が怒られないようにするため」という自衛の話だ。
僕は誰かに言われてこう思うようになったワケではないが、僕はこういう考え方で評価を得てきたし、マイナス評価を避けてきた。「何も言わないことにする」「報告しないでおくことにする」なんていう選択肢をとって、上司からプラスの評価を受けている人は見たことがない。
「コレは上司に報告しない方が良いな」なんて、人生で一度も思ったことがないので、「積極的に報告しない部下」の心理は、僕にはよく分からないのが正直な感想だ。