伝説のギター「ルシール」を作ろう!

初めてギターを改造するド素人が、マンガ「Beck」に登場するギター「ルシール」を再現してみた。

ルシールについて : ルシールとは?

「伝説のギター『ルシール』を作ろう!」ということでいきなり始めたものの、「ルシール」って何ぞや?という人もいるかもしれないので、まずはルシールのことを簡単に紹介。

ルシール」は、マンガ・アニメ・実写映画で話題になった「Beck」という作品に登場する伝説のギターである。1958年製のバーストレスポールで、伝説のブルースギタリストがステージで使用中何者かに射殺され、ボディには7つの弾痕が残っている…というものである。

コミック表紙より アニメでのルシール 映画で実写化されたルシール

もちろん元ネタは、ブルースギタリスト「B.B. キング」の愛用機「ルシール」。実際のお話は、彼の演奏中にケンカを始めた二人の男性客が取り合っていた女性の名前が「ルシール」だった、というもの。ギターもレスポールではなく ES-335 タイプ。

Gibson B.B. King Lucille

ルシール製作にあたって : 計画・準備・使用ギター

そんなルシールをマンガやアニメで見ていて、自分で作ってみようと思い立った次第。当方、ギターの改造経験はなく、まったく手探りの状態で始めることに。

基本的に、お金をかけずに製作することをテーマにした。個人的に気になるポイントさえ押さえられれば、完全再現でなくてもよしとする。ベースとなるギターにもお金はかけられない。ヴィンテージは当然用意できないし、Gibson のレギュラー品も高いので、安ギターで良さげなものを探すことにする。

「個人的に気になるポイント」は大きく別けて2つ。ボディの色と、各種パーツの種類だ。

パーツに関しては、それぞれがどれだけ本物に近いかといったことは意識しておらず、あくまで雰囲気。あとはヘッドがなるべく Gibson に近いものが良いかな…というぐらいであろうか。ヘッド裏にルシールのシリアルナンバー「8 3001」は入れなくても良いかな。


以上の条件を満たす安ギターはないかと色々探していたが、全てをクリアしているものはなかった。交換できるパーツなどを妥協して探すと、K-Garage KLP-320 と Blitz BLP-450 の2本が候補に挙がった。ともにチェリーサンバーストとハニーサンバーストのカラーラインナップがあり、好みでどちらを選んでも良いであろう。

K-Garage KLP-320 HB Blitz BLP-450 HB

KLP-320 は裏蓋が黒色で、BLP-450 は白色だった。ヘッド形状は BLP-450 の方が雰囲気がある (KLP-320 はくびれがあまりない)。どちらも検討していたが、最終的にヤフオクで安く手に入ったのが BLP-450 のハニーバーストだった。これをベースに改造していく。

購入した Blitz BLP-450 HB これがベース機の BLP-450。

製作の手順として以下のような計画を立てた。

ギターの改造や日曜大工など、工作関係は全く経験がないので、想像とネットでの情報を基に「こんな感じかな~?」とアバウトに考えた。あくまで我流。


ということで、製作にあたって用意したものは以下のとおり。

ギターから道具まで、送料込みで合計11,000円程度だった。詳しくは製作過程や完成後に紹介する。

それでは製作開始!画像には注釈でコメントが入っているのでそちらも合わせてドウゾv。

製作日誌1 : ボディに穴開け・弾痕風加工

というワケで人生初のギター改造だが、初っ端の作業が「ボディに弾痕を開ける」とは、ギタークラフトマンでもなかなか経験したことがないのでは?w

素人で電装系をいじれないため、弦は外したがピックアップ類はそのままで作業する。マンガやアニメ、映画に登場するルシールを参考に、7つの弾痕の位置に印を付ける。ここでピックガードはいったん外しておく。

油性ペンで印を付けている。 こんな感じで穴を開けるつもり。

穴の位置を決めたら、ドリルを突っ込んでいく。丈夫な電動ドリルではないため、無理をしないでゆっくりほじる。ドリル刃の長さがボディを貫通させるには若干足りず、刃の先端が裏側に到達したら裏からもドリルを入れた。当たり前だが木屑が沢山散らばるので、掃除機を片手に作業する。

今回使用した電動ドリルとドリルの刃。 このようにドリルを貫通させる。

BLP-450 に限っての話であろうが、ドリルを入れていくとボディの真ん中は空洞になっていた。ネットでの情報でも「鰤レスポのボディは空洞だ」と聞いていたが、本当にそうだった。どうりで軽く感じるワケだ。穴を開けた分、さらに軽くなるだろうかw。

上手く写真が撮れなかったが、これはフロント PU を横から見たところ。リア PU まで繋がる大きな空洞が広がっている。

30分ぐらいで穴は開け終わっただろうか。次は表面を弾痕のように見せるため、放射状に線を入れていく。小学校ぶりぐらいに彫刻刀を持ち出し、三角刀で穴の周りを削る。線の長さ、太さはデタラメに入れた方がそれっぽく見える。意外と時間がかかって、2・3時間ぐらい掘っていた。鰤レスポのフレイムメイプルトップは薄い合板をラミネートしているだけだった。

穴の周りを削って弾痕風になったが、木の白さが気になったため、100円ライターで軽く炙って焦がしてみた。良い感じに黒くなったが、色合いが気になる場合は茶色の塗料などで着色すると良さそう。

こんな感じで削る。横には掃除機を置いて木クズを吸わせている。 ライターで焦がした。

ボディの弾痕加工は以上。次は外しておいたピックガードを加工する。ボディに開けた穴と位置がズレないよう、こちらにも穴を開ける。こちらも三角刀で穴の周りを削ってみたが、プラスチックだとなかなか上手く彫れず、疲れたので途中で断念。情けないことにこのまま放置状態…w。

プラスチックは削るのかなり大変…。

ピックガードを付けてしまうとピックガード下のボディの穴はほとんど見えなくなってしまうが、逆にあまり見えない位置だからこそ、ここで最初に穴開けや弾痕加工の練習ができるワケである。位置的にはドンピシャで、穴を正面から見れば奥の景色が見られる。


ここでついでに、フロンドピックアップを沈み込ませておく。1弦側の高さ調整ネジをピックアップから外し、ピックアップを落とした状態で放置するだけ。外した高さ調整ネジはエスカッション部分に瞬間接着剤で接着してしまう。配線はそのままなのでフロント PU は生きているが、1・2弦の音が極端に小さくなってしまう。PU セレクターはリア固定で使用しよう。

沈んだピックアップの再現はネジを外すだけ。

これでルシールの最大の特徴である、銃弾の痕と沈み込んだピックアップの加工は終了。以降はよりルシール (もっといえば58レスポール) に近付けるための作業となる。

製作日誌2 : ヘッド塗装

今回ベース機に選んだのは Blitz のレスポールなので、当然ヘッドには「Blitz」と書かれている。これではあまりにも安ギター丸出しなので、とりあえずロゴを消してみる。

本当は元の塗装を剥いでサンディングして、塗装したらクリアを吹いて…とかやるのだと思うが、塗装関係も素人でよく分からないのと、なんだか面倒くさいという理由で、元の塗装の上に直接黒のスプレーを吹いてしまうことにした。

ネットでギター改造に関するサイトを見ていて、どうやら「ラッカー系」というものは乾きも早いようだと知った。「クリアラッカー」というのは透明なラッカーのことで、色の付いたラッカーもあると分かり、これなら一発で済むと思い、ホームセンターで黒のアクリルラッカースプレーを購入。速乾タイプと書かれており、300ml で約400円と、一緒に買ったドリルの刃よりも安かった。

購入した黒色のラッカースプレー。実際にやってみるまでどうなるかよく分かっていなかった。

ギターのペグを取り外し、ヘッド表面を残して側面と裏面をマスキングテープで覆う。ネック以降は新聞紙で覆う。家は一軒家ではないので広い庭もなく、自室で作業することにした。この鰤レスポが送られてきたときの段ボールを利用し、ギターを段ボールの中に置いてスプレーを吹くのである。

そうそう、ここで、トラスロッドカバーを外しておく。あとで2点留めのカバーにするため、下の2箇所のネジ穴を爪楊枝でふさいでおく。ボンドを付けた爪楊枝を指し込み、飛び出している部分をカットすれば OK。これで上から塗装すれば穴は見えなくなるであろう。

とても雑な穴埋め。

スプレーは一度に吹くのではなく、薄く数回に別けて吹く、ということは知っていたので、とりあえず薄めに一度吹いてみた。ふむ、難しい。ついついブシューっと吹きたくなってしまう。そして吹いてから気付いたが (常識なんだろうけど)、スプレーにはシンナーが入っている。閉め切った部屋で吹くと「ハイ」になってしまうので、室内でやる場合は換気が大切。

マスキングをした。 このような現場で作業している。ネックとボディを新聞紙で覆い、スプレーを吹き付けていく。

ネットでの情報だと、ラッカー系は30分もすれば触れるようになるとのことだった。確かに、吹いてから30分くらい放置すると、指で触っても塗料が付着することはなかった。念のため1時間程度開け、3・4回吹いてヘッドロゴを完全に隠した。

吹き終わってから数日ほったらかしにしていたが、実際は1日で十分であろう。スプレーの吹き方が下手で、そのままだと表面がボコボコだったので、紙ヤスリでゴシゴシして均した。紙ヤスリも粗さによって何番とか種類があるようだが、全然知らないまま家にあったものでテキトーにこすった。クリアラッカーのテカテカな光沢も落ち、つや消し塗装みたいな結果になった。エイジド加工と思えば良いか?

数回吹いたあと。まだテカテカのとき。

ヘッドの塗装と同時進行でやっていたのが、ボディ裏のフタを黒く塗装すること。本家ギブソンはこの裏蓋が黒く、大抵の安ギターは白い裏蓋が使われている。ギターの裏側をじっくり見る人はあまりいないかもしれないが、僕はこの「違い」に気付いてしまってから、どうしても白い裏蓋が格好悪く思えて仕方なかった。そこでこの裏蓋も、同じラッカースプレーで黒く塗り直してみた。

作業工程はヘッド塗装と同じ。フタを取り外し、「作業場」である段ボールの上に置いて3・4回スプレーを吹いた。

白い裏蓋を黒く塗装する。 いきなり塗装後。

いかがだろうか。裏蓋が黒いと、なんとなく高級感があるように思えないか?w


今回作業したのはここまでだが、ロゴを消したら今度はロゴを入れてみたい、と思うのも自然な流れであろう。簡易的なやり方はいくつかあり、比較的簡単に実現可能なので、興味がある方は試してみてはいかがだろうか。

本家ギブソンはパールシェル (真珠貝) を埋め込んだインレイのロゴなので、真似するにはそれなりの用意が必要になる。仕上がりは劣るものの、シール状のものを貼り付ける方法が手っ取り早いかと思われる。くれぐれも他社製のギターに Gibson ロゴを貼って誰かに売ったりしないように!w

製作日誌3 : パーツ交換・エイジド加工

弾痕加工をして、ヘッドロゴを消した。あとは細かいパーツ交換ぐらい。

初めにトグルスイッチノブ。いわゆるピックアップセレクターのノブ。オリジナルのヴィンテージレスポールはこれがアンバー色 (オレンジ色) のもので、ヒスコレもアンバーだが、本家レギュラー品をはじめ、コピーモデルのほとんどは白いノブが付いている。

ギターに興味のない人にとってはどうでもいいことかもしれないが、トグルスイッチノブはレスポールの「目」みたいなものだと個人的に思っている。ここの色で印象がかなり変わると思う。下の写真のように比べて見ていただけば、なんとなく印象の違いが分かってもらえるであろうか…?

トグルスイッチノブ比較。左はギブソン・アンバー色、右がブリッツ・ホワイト。 購入したリプレイスメントパーツ。右がミリサイズのトグルスイッチノブ、左は2点留めのトラスロッドカバー。

さて、トグルスイッチノブはパーツとして沢山売られており、カラーも色々あったりする。今回は Scud というメーカーのものが一番安かったのでそれを選んだ。Blitz は日本・アジアで製造されたギターのため、パーツ規格はミリ規格。そのため、インチサイズのノブではなく、ミリサイズのノブを購入した (本家ギブソンは米国産なのでインチサイズ)。

…が、いざノブを付けてみようとすると、なんかブカブカだ。全然装着できない (泣)。どうやら Blitz のトグルスイッチは独自規格のサイズで作られているようで、ノブの穴のサイズがミリでもインチでも全然合わなかった。仕方ないので、苦肉の策でノブの穴の中に接着剤を流し込み、そのまま取り付けてセレクター部分と接着させてしまった。これで外れることはない。そもそもフロント PU は沈めてあってリアしか使わないので、セレクターをイジることはないだろうから、固定できればなんでも良いのであるw。

左は BLP-450 に付いていたノブ。右は Scud のミリサイズ。穴の大きさが全然違う。Scud がおかしいのではなく、Blitz が独自の規格なのである。 接着剤を流し込んでセロハンテープでしばらく固定し強引に接着させる図。

無理矢理トグルスイッチノブを交換した次は、トラスロッドカバーを交換する。鰤レスポに付いていたトラスロッドカバーは3点留めのどうでもいいような形で、全然ギブソンらしくない。ギブソンの2点留めのロッドカバーは鈴のような形状から「ベルシェイプ」と呼ばれている。1970年代以降のコピーモデルの激化に対して、ギブソンは2点留めのベルシェイプを禁止したようで、古い国産ギターでない限り大抵は3点留めで異なるシェイプのロッドカバーが付いている。ただし2点留めベルシェイプのリプレイスメントパーツは沢山売っているので、付け替えることは容易。

ロッドカバーも Scud のものが最安だった。レスポールマニアは細かい形状の違いまで気にするようだが、僕は正直 Scud もヒスコレもヴィンテージも、差がよく分からないのでこれで十分。

こちらも、取り付けようという段階になって大きな問題が発覚した。鰤レスポはロッド穴の開け方が本家ギブソンと違い、ナット部分まで削れているため、ロッドカバーの下のネジを留める場所がなかったのである。

ネジ留めするための木部を取り付ける、といった工作は手間がかかるので、ここは強引に、上のネジのみでガッツリ締めることにした。下のネジ穴にもネジを挿してあるが、フロント PU から取り外した高さ調整ネジと同じように、ロッドカバー自体に接着してあるだけで、ネジはどこにも留まっていない。飾りだ。爪楊枝でふさいだ元の穴はカバーで隠れ、ロッド穴も大体隠せているので、まぁよしとする。

このように下のネジ部分は空洞状態。強引に取り付けている。

これでパーツ交換は終了だが、1958年製レスポールというルシールの設定を考えると、全体的にいささか綺麗過ぎると思い、ギブソン社でいうところのエイジド加工、フェンダー社でいうところのレリック加工に挑戦してみた。

といっても、全体を紙ヤスリでこすりまくるだけ。ピックアップカバーなど金属部分は光沢が消えると良い感じ。ボリュームノブ付近など、手がよく当たる場所は他の場所より多めにこすって痕を付けた。時にはマイナスドライバーで意図的にキズを付けたりするのも、ウェザーチェックみたいでアリだろう。

劇中のルシールも塗装が剥げ落ちるレベルの状態にはなっていないため、エイジドはほどほどにした。結果はイマイチよく分からないかもしれないが、やはり金属部分がくすむと雰囲気が変わる。

家にあったテキトーな紙ヤスリでゴシゴシ。結果のほどは…?

完成 : 完成写真・考察

というワケで、作業時間約3日で、ルシールもどきの完成!

ルシール完成!全体像!

完成写真を並べてみる。

弾痕は貫通しているが、穴を正面から見ないとよく分からない。 ボディ裏。穴の周りは削らず、ライターで少し焦がしたのみ。 ヘッドは紙ヤスリでゴシゴシしてつや消しっぽくなった。

ボディのエイジド感はこれが分かりやすいだろうか。マット仕上げみたいな感じになった。 実際の見た目の色はこの写真が一番近いだろうか。

リア PU はエスカッションの高さに揃えておくと、オリジナルやヒスコレっぽく見える。 ピックアップやテールピースなどの金属部分も紙ヤスリでこすってある。

実際は何日もほったらかしたりしていたので1ヶ月くらい期間があったが、絶対的に必要なのは塗装の乾燥待ちぐらいなので、やろうと思えば1・2日でできなくもないだろう。

あとやれそうな改造点というと、ロゴの貼り付け、ヘッド裏にルシールのシリアル「8 3001」を掘り込む、エスカッションを高さのあるものに交換、などだろうか。ペグの形が違うとかそういう細かいところまでは気にならないもので…w。


作中のルシールにどれだけ近付けたいか、実際の58レスポールのスペックにどれだけ似せたいのか、によって拘る改造ポイントや手間のかけ方は変わってくると思うが、今回のような「パッと見ルシール」レベルであれば、ベース機からリプレイスメントパーツ等も合わせて1万円強で作れることが分かった。

今回のように数千円~1万円程度の安いコピーモデルをベースにすれば、失敗しても落ち込まずに済む。ギターを改造してみたい、でもどうしたらいいか分からない、という初心者の方は、とりあえず安ギターを買って実験してみてはいかがだろうか。上手く作れて余裕ができたら、ぜひ本家ギブソンの個体でチャレンジしていただきたい…!!w

その他 : ルシール詳細情報・参考文献

製作に関して参考にしたサイトなどを載せておく。

ルシールを再現している方々のページ。

その他製作方法に関して参考にしたページ。

Beck 00巻より