「でんのうせんしポリゴン」の資料

アニメ「ポケットモンスター」の第38話、「でんのうせんしポリゴン」。1997年12月16日 (火) 18:30~19:00 に放送されたこの回は、の激しい点滅の演出があり、この視覚効果により具合が悪くなったり発作を起こしたりする視聴者が多発して大問題になった。

このページでは、後に「ポケモンショック」「ポリゴンショック」と呼ばれるようになったこの問題に関する記録を収集する。

放送内容の詳細

アニメの純粋なストーリー、放送内容は以下のサイトが詳しい。

ある日、ロケット団がポケモン転送システムに侵入してポケモンを盗もうとしていた。サトシ一行はポリゴンとともに電脳世界に入り込み、ロケット団と戦い、電脳世界から脱出する…、というストーリー。

このストーリーの後半部分、ワクチンソフトの襲来をかわすサトシ一行のシーンで、長時間に渡る激しい点滅シーンがあり、これが「光過敏性発作 (光感受性てんかん・光感受性反応)」といった発作反応を引き起こしてしまった。

実際の映像

以下は、ニコニコ動画の「sm30826297」(← コチラは生の映像なので閲覧注意・ググって閲覧する際は自己責任で) を加工し、20分の1のスピードに遅くしたモノと、コマ止めしたモノ。いずれも色味を抑えてある。

確かに、赤と青の強烈な点滅が画面全体に広がっている。その前後も、白や黒の瞬間的な点滅や、ピカチュウが放つ黄色の光線など、光の激しい演出が確認できる。いわゆる「パカパカ」と呼ばれる演出技法である。静止画でも目が痛くなるような強烈な色使いだ。

点滅の回数が多いというのも問題だが、「赤」と「青」の交互の点滅、というのが余計に悪かったといわれている。人間の網膜には、赤・緑・青のそれぞれの色を受け取る「錐体細胞」があって、この3色のうち2色を高速で交互に受け取ることで、錐体の興奮と抑制効果が混ざって脳が混乱するということらしい。

当時は、こういう医学的なことが分かっておらず、子供に大人気のアニメで条件が揃ってしまい、てんかん発作等の問題が顕在化したというワケである。

自分の経験

自分はアニメ第3話からポケモンを知り、アニメはずっと見ていた。しかし、この第38話は当時、たまたま VHS に録画だけして、リアルタイムでは視聴していなかった。つまりリアルタイムな被害は運良く回避していたのである。

確か翌日には大々的なニュースになっていて、「でんのうせんしポリゴンを見ると吐き気や頭痛を催す」と新聞やテレビで報道されていたと思う。事件直後は詳しい原因まで分からなかったこともあり、「へぇ~何かあるんだ、じゃあ録画したヤツ見てみるか」と、軽い気持ちで VHS を再生してみた。

両親も事件のことは把握していて、両親に「ビデオ見てみていい?」と質問して見たと思う。両親は VHS を見る際に同じ部屋にいたものの、両親は別のことをしていて、テレビ画面を一生懸命見ていたのは僕だけだった。日中帯の、リビングの窓から陽が射し込む、比較的明るい環境で見ていたと記憶している。

番組後半の激しい点滅シーンを見て、「おぉー確かに激しいシーンだなぁ~」と眺め、番組を全部見終わった。直後はなんともなかったが、番組を見終わって2・30分くらい経ってから、どうもなんだか気分が悪くなり、吐き気がしてきた。

「うわーホントに具合悪くなるんだーコレ…」と実感し、リビングに布団を敷いて寝転がり、気分が良くなるまで2時間くらい寝ていたと記憶している。結局、嘔吐や発作など重症には至らず、寝たら治った。

…ということで、自分は報道を見て自ら実験してみたら案の定具合が悪くなったが、軽度で済んだバカガキであった。w

社会問題化・影響

Wikipedia や特別番組によると、視聴者のうち750人以上が搬送されたそうで、翌日以降マスコミで大きく報道されるようになった。当時、ゲームを含めてポケモン人気が絶頂期の真っ只中で起こった事件であり、ニュース報道ではポケモン全体がバッシングされていて、子供心に気分が良くなかったのを覚えている。

ポケモンのアニメは翌週から放送休止となり、代替番組が放送された。その間に原因究明・対策が進められ、1998年4月16日にようやく放送再開された。

「でんのうせんしポリゴン」の回は欠番となり、二度と再放送されていない。38~40話の構成が調整された他、過去の放送回についても、類似する光の点滅シーンなどは修正が施されて再放送・ソフト化されている。

現在アニメの冒頭に流れる「テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てね」といったテロップは、この「ポケモンショック」事件によって流されるようになったモノである。また、ポケモン以外のアニメや映画、ゲームにおける光の演出も見直され、古いアニメや映画を放送する際に点滅シーンが修正されたりするようになった。Nintendo 2DS バーチャルコンソールで再発売された、初代ポケモンのゲームにおいても、「10まんボルト」などの攻撃演出で点滅を軽減する修正が入るなど、特にポケモンの関連商品では入念に調整が入るようになった。

「ポケモンショック」全般の解説

おわりに

僕はリアルタイムにこの事件を見てきた世代であるが、2021年現在、この事件から24年が経とうとしており、この騒動を知らない世代も多くなってきたことであろう。

この「ポケモンショック」は、子供たちが大好きだったポケモンが発端となり、マスメディアが自分達も知らない影響を与えてしまった事件である。この件については、分かりやすく医学的な症状が出たために、こと大きく取り沙汰され、調査・対策がなされてきた。

しかし、2021年現在においても、自分達が好き好んで享受しているモノが本当に安全なのか、という視点は忘れてはならない。「部屋を明るくして離れて見てね」と言われて育ってきた我々も、いつの間にか暗いベッドでスマホを眺めるようになった。長時間のスマホ閲覧によって視力に悪影響が出たり、SNS 依存によって性格・人格形成や人間関係に問題が出たりする。

こうした状況は、1997年までの「パカパカ」と同じだ。詳しい影響が分からず、でも何となく便利だからと世間に溶け込んでいるだけで、安全が確立されていないモノがたくさんある。

あらゆるものを疑ってかかること。自分の目や耳・感覚で世界を確かめ、自分で検証すること。そうすることで、危険やリスクを正しく感じ取れるようになり、適切なモノだけ摂取できるようになるだろう。「ポケモンショック」の教訓は、テレビの演出修正で終わった話ではなく、我々視聴者が今もなお肝に銘じて生活すべきモノだと思う。