ドキュメンタリー「Still: A Michael J. Fox Movie」を観た
Apple TV+ に加入して、俳優マイケル・J・フォックスのドキュメンタリー「Still: A Michael J. Fox Movie」を観た。
マイケルといえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズや「摩天楼はバラ色に」など、特に1980年代に活躍したハリウッド俳優であるが、1990年代からはさほどヒット作に恵まれていない印象。しかしながら、元々は「ファミリー・タイズ」というテレビドラマで人気を博したテレビ出身の俳優であり、90年代も「スピン・シティ」などのテレビドラマでコミカルなキャラクターを演じていた。
なぜ1990年代・そして2000年代以降の活躍が減ってしまったのかというと、彼はその間、若年性パーキンソン症という進行性の珍しい病気と診断されており、病気が発覚した1991年から1997年頃まで、世間に公表することなく闘病を続けていたからであった…。
僕は BTTF シリーズが大好きで、マイケルの著書「ラッキーマン」や「いつも上を向いて」を愛読してきた。
今回鑑賞したドキュメンタリー「Still」は、大まかには「ラッキーマン」の内容に沿って映像化がされている。マイケルの出演作や当時のインタビュー映像などを活用して再現 VTR が構成されており、そこにマイケル本人のナレーションが乗ることで、さながら当時のマイケルが喋っているかのような映像に仕上がっている。
ドキュメンタリーの時間的に、「ラッキーマン」の内容がだいぶ省略されて映像化されている、という感じだが、本を読んでいて想像していた映像が、まさにそのまんま映像化・再現されているので、感激した。つまりはマイケルの著書における描写が極めて正確であり、読者の想像に誤解を与えない文章になっていたワケであり、また、その文章を忠実に映像化することを怠らなかったドキュメンタリーの制作陣にも感動を覚えた。
そして、「ラッキーマン」の P231 で本人が言及している、「当時の映像を年代順に見ていく」ことが実際になされている。
「後から振りかえってみれば、実際に診断が下される前に、その他の兆候が現れていた、ということもあるかもしれない……」この部分がほんとうであるという証拠がまだないかと過去を振りかえってみたところ、残念ながら心当たりがいくつもあった。ぼくは「まばたきの減少、顔の表情が乏しくなる」という最初の例を考えてみた。これはぼくの仕事を年代順にビデオで見ていけば、簡単に確認できた。ぼくとしてはそんなことをするつもりはなかった――こんなにぼくの作品ばかり見るのに耐えられるのは母親だけだろう――が、この症状はたしかに見られた。だが、ぼくの「まばたきが減少したり」「顔の表情が乏しくなった」のは、カメラの前に立つことが居心地よくなってきたからだとずっと思っていた。「そうじゃない」とこの本はぼくに語りかけてきた。「おまえは上手になってきたのではなくて、病気が進んできていただけなんだ」と。
マイケル・J・フォックス - ラッキーマン … P231
マイケル自身が症状に気付いていなかった時期から、病気が発覚して症状を必死に隠そうとしているシーンまで、該当すると思われるシーンが克明に列挙されている。言われて見れば、確かにまばたきが少なくなっていったり、震える左手をごまかすためしきりに手を動かしていたりというシーンが確認できた。
特にテレビドラマでの活躍をあまり見られなかった日本人からすると、こうしたマイケルの「秘蔵映像」が時系列で確認できるのは嬉しくもあり、また病気に苦労していたことがより強く伺い知れる。
「Still」における2022年現在のインタビューの中で、「君の中にはジョークがあるのに、それを言うのに苦労しているように見える」と問われているシーンがあった。「Still」、主に「静止」などと訳されるこの一単語をとっても、マイケルが「静止など知らずに駆け回っていた幼少期」と「病気により静止できない現在」を自身でジョークにしているユーモアの表れなのだが、段々とそうしたユーモアを表現するのが難しくなってきていることを話していた。
「痛みについて何も言わないね?」と問われると、「話題にならなかったから言わないでいただけ。激しい痛みを感じている」と答えていた。「ラッキーマン」の日本語版が発売されたのが2003年であるが、2023年の現在に至っても、マイケルは病気と格闘しているのだ。情報としてそのことは理解していても、いざ本人のリハビリ・トレーニング映像を見ると、よくユーモアが絶えずにいられるなぁと感動する。歩きながら近所の人と挨拶する、たったこれだけの動作がうまくいかずすっ転んでしまったり、転倒時に顔を守れなかったり、手の骨を折ってしまったりと、そのリアルな、実際の現状を映像で見ると、とても大変な状況にあることはひと目で分かる。
しかしそれでもマイケルはユーモアが絶えない。家族の一言からでも次から次にジョークが湧き出てくるし、病院のドクターとの会話もユーモアたっぷりだ。その様子に、見ているこちらは心が温かくなるのだ。
著書「ラッキーマン」を読んでいた人にとっては「答え合わせ + α (現在の様子)」として見られるし、著書を読んだことがなくても、マイケルがどんな人物で、どのように育ってきたか、どのように病気と向き合ってきたかを振り替えれる、良いドキュメンタリーになっていたと思う。
Apple TV+ は、Windows PC の Brave ブラウザでも問題なく閲覧できた。日本語字幕は時々うまく表示されないタイミングがあって、巻き戻してやるとキッチリ表示されるなど、若干不具合はあったが、動画のストリーミング画質が落ちるようなことはなく、高画質で閲覧できた。
マイケルのユーモアを忘れない姿に元気をもらい、僕も頑張ろうという気持ちになった。